エコ・コラム
土壌汚染とリーガルリスク
みずほパートナーズ法律事務所 弁護士
増田 健郎 氏
Land-Eco土壌第三者評価委員会シンポジウム
(H20.5.15)より

1.はじめに

 今日のシンポジウムは土壌汚染とリーガルリスクという題名でお話しさせて戴きます。
 土壌汚染対策法ができる前頃から、何回かこのおおさかATCグリーンエコプラザでもお話しさせて戴きました。どういう法律なのか、どういう効果があるのか、どういう要件があるのか、実際にどういう運用をされるのか等、大体土壌汚染対策法に関わる話をしてきました。

 ただし、土壌汚染対策法は単なる規制法に過ぎません。土壌汚染対策法上どうなるのかというのは、大体書いてある通りです。
 実際に不動産が売買の対象となった時に発生するリスクは、ほとんど契約上のリスクなんですね。担保責任、損害賠償請求、契約解除ができるのかどうか、原状回復をどうするのか等のリスクがあります。所有者が土地を持っているだけで責任を問われるケース、取引を行ったことで責任を問われるケース、仲介や土壌調査等で取引に介在したことで責任を問われるケース等、様々です。例えば売買が成立した後で土壌汚染が確認されたときに、取引に関わった人たちがどの程度責任を問われるのか等の問題の方が、土壌汚染対策法そのものによる問題よりも、圧倒的に多いんです。

 ですから今回は、土壌汚染対策法だけでは規制できない、契約当事者間で発生する民事レベルの契約の話をしようと思います。
 ただそれだけではなく、ブラウンフィールド問題をどう考えたらいいか、また第三者評価委員会がどのように機能するのがいいかというのが、今回のシンポジウムのテーマです。ブラウンフィールド問題自体が同時に経済論や政策論であり、どういう法律を創ればこの問題を解決できるというものではないですから、なかなか法律家として関わるのは難しいですが、ブラウンフィールドに関わる問題提起をし、なぜこういう問題が起きているのか簡単な考察をしたうえで、契約当事者間のリーガルリスクのお話をしたいと思います。


2.法と実務の乖離

 平成19年10月に環境省が作成した資料の中で、土壌汚染状況調査をどの程度行って、どの程度指定区域が発生しているか、平成14年から17年の累計を挙げております。
 調査しなくてはならない契機が発生した件数は、土壌汚染対策法3条によるケースでは2295件です。4条によるケースは非常に少なく、4件です。
 調査の結果、指定を受けたサイトは112件あって、そのうち指定を解除されたサイトが50件です。土壌汚染対策法はこのような流れで運用されています。
 問題なのは、土壌汚染対策法上の対策と、実際の対策が乖離しているということです


2.1.調査契機の乖離

 土壌汚染対策法はもともと、土壌汚染の状況を把握して、健康被害を防止するための措置等を行うことで、国民の健康を保護するという目的で創られた法律でございます。
 どんな場合に調査をする必要があるのかというと、主に土壌汚染対策法が施行された平成15年2月以降に事業が廃止された場合に限定しております。これは3条で規定されています。4条で規定されているのは、都道府県の知事により健康被害のおそれがあると判断された場合です。例えば工場等の近隣で問題になり、自治体の長等が調査を要求するケースで、先ほどの調査件数のデータを見て戴いても分かるように、非常に珍しいケースです。

 ただ実際には、最近はほとんどの土地取引で土壌汚染調査がなされています。各自治体が条例等で調査を求めているケースもあります。ですから、土壌汚染対策法上で調査義務があり、報告されているケースはほんのわずかしかない。
 見ただけで分かるという汚染もありますが、隠れている汚染もたくさんありますし、原因がはっきりしないケースもあります。ですから土壌汚染の情報を提供しないと、簡単に取引のまな板に乗ってきません。
 もちろん売買だけではなく、そこにプラントを建てるとか、その土地を担保にお金を借りるとか、その土地から何かを回収しようとか、土地にはいろいろと経済的効用があって、それを果たそうとするときに、土壌汚染が邪魔をする。土壌汚染があることによって価格が下がるとか、工事ができないとか、いろんな問題が発生する。もちろん近隣の問題も常にあります。
 そういった問題をクリアしないと、その土地の利用価値も生きてこないですから、取引に関わる者はどうしても土壌汚染に関心を持たざるを得ないんですね。心配だから調査をしておくとか、買い手等から言われるので調査しておかなくちゃいけないとか、実際には非常に幅広い範囲で調査が行われています。


2.2.対策方法の乖離

 土壌汚染対策法は健康リスクを防ぐために創った法律ですので、7条に規定されている汚染が発覚した場合の措置も、人の健康に対する危険な状態をなくすということを目的にしているんですね。
 ですから対策内容は、健康被害を防止するために必要な限度の措置に限定しています。多くの場合、要求されているのは封じ込めのレベルで、掘削除去まで要求するケースは非常に少ないんですね。

 実際にどのような対策がなされているか、土壌汚染対策法が施行されてから平成18年3月までのデータを挙げております。
 含有量基準に適合していないサイトで、土壌汚染の除去を要求されたのは0サイトです。あとの45サイトは、除去以外の封じ込めや浄化で良いとなっているんですが、実際には37サイトで土壌汚染の除去が行われている。
 溶出量基準に適合していないサイトも同じで、要求されているのは除去が5サイト、除去以外が96サイトですが、実際には除去が86サイト、除去以外が15サイトとなっております。
 このデータは土壌汚染対策法上で調査義務があるケースだけです。それ以外の任意で調査したケースや自治体の条例で調査したケースではどうかというと、やはりほとんどの場合が掘削除去です。
 実際の現場では、所有者や調査会社等が汚染の程度から考えてこの程度でいいと思っているレベルを超えた対策を、取引の相手や周辺の住民等が要求してくるものですから、それをクリアしなければ経済的な状況や工事を一歩先に進めることができないという、非常に難しい課題を抱えてしまっているということなんですね。


2.3.法と実務の乖離の理由

 なぜこのような乖離が起こるのかというと、ひとつは心理的な要因としてスティグマ(嫌悪感)があるために、対策費用等の交換価値を考慮しても、掘削除去の方が比較的優位な選択肢になるからです。
 また、土地の利用価値の下落も理由のひとつです。
 本来は汚染の暴露経路の遮断だけで良いんです。つまり含有量基準を超過するケースでは、例えば地表面にある汚染土壌に子供が触れるというようなことを想定しているわけですから、盛り土等で封じ込められていれば良いですし、溶出量基準を超過するケースでは、地下水を飲まなければ問題ない。
 ところが実際には、それでは土地の利用方法が制限されてしまうため、汚染の除去の方が優位な対策ということになります。
 もうひとつは、遮断対策の技術的な信頼が形成されていないために、汚染が残った不安が大きく評価されてしまって、汚染除去の方が優位な選択となってしまっている。

 これらの理由から、実際の現場では掘削除去を原則としているんじゃないかと言えるほどになってしまう。健康被害の予防という土壌汚染対策法の目的と、経済活動を支える原理とは必ずしも一致していないわけですね。
 このことがブラウンフィールドの問題を生んでいます。


2.4.ブラウンフィールド問題

 ブラウンフィールドとは、経済的に交換価値がないために、適切な処理をされないままで放置されている土地のことです。土壌汚染対策に不動産の価値の30%以上の費用がかかれば、普通はその土地を買ったり利用したりしないというデータが出ております。
 最近の環境省の調査によると、対策費用が不動産価値の30%を超える土地は、10万件以上あると言われる土壌汚染地の1/4ぐらいあるそうです。それだけのサイトがコストの問題にぶつかって、ブラウンフィールド化しているか、そうなる可能性が高いということです。
 ブラウンフィールドで何が問題かというと、汚染を放置されることによって健康被害のリスクが残ってしまう。また土地が活用できないことによる経済的な損失が発生する。地下水の汚染や残土の不適切処理によって、汚染がさらに拡大してしまう可能性もあります。

 この問題をどう解決できるかというと、ひとつは土壌汚染対策法や廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の規制を強化し、対象範囲を広げるとか、状況に応じた対策に変える等の方法があります。
 また、今行われている封じ込めや不溶化等の中間的な対策の信頼性を高める。そうすれば、何でもかんでも掘削除去によらなくても、土地が動き始めるんじゃないでしょうか。
 それから、今はほとんど使われていない土壌汚染対策基金の適用範囲を拡大する。日本弁護士連合会でもこの問題を扱っていますが、アメリカのスーパーファンドのようなものを日本でも取り入れるべきであるという意見が、出始めております。
 ただし、アメリカでは効用だけではなく問題もたくさん出ていますから、費用がかかるという問題だけではなく、どんな範囲の人たちに費用を負担させるか、どういうふうに運用したら良いか等、検討すべきことが多くあります。
 またそこまでしなくても、ブラウンフィールドを開発する活動に対して、例えば補助金を出すとか、税金を優遇したり非課税にするとか、国や別の基金が汚染対策の費用を補填する等が考えられます。そのルールを造るのはなかなか難しいでしょうが、やればできると思います。


3.想定されるリーガルリスク

 それでは、土壌汚染がある場合に、それに関わる当事者がどのようなリスクを負うのか、簡単に説明し、平成18年の裁判案件を紹介させて戴こうと思います。

 売買当事者の契約上のリスクとしては、まず錯誤無効が挙げられます。土壌汚染がないと勘違いして、買わされてしまった場合、土壌汚染があると分かったら、民法第95条によって契約は無効になります。土地を返すからお金を返せ、というのが一般的な案件です。
 瑕疵担保責任は皆さんよくご存知だと思います。売主が負わなくちゃいけない法的リスクの一つで、契約解除や損害賠償請求があります。これは、汚染があることによって、瑕疵担保責任があるのかが問題になるということで、実際に責任を負うかどうかは場合によって様々です。
 もう一つは債務不履行責任です。瑕疵担保責任も債務不履行責任の一つだと言われていますが、瑕疵担保責任は無過失責任で、瑕疵があって、買主に特に重過失や悪意がなければ、売る方に過失がなくても責任を取らなくちゃいけないというものです。一方、債務不履行責任は過失責任ですので、売った側に何らかの責任があれば、契約を解除されたり損害賠償請求されるというものです。

 事業者のリスクとしては、刑事責任、行政責任があります。
 また、土地所有者のリスクとしては、土壌汚染対策法上の責任や、隣地の所有者等に対する責任も発生します。


3.1.売買契約当事者のリスク

3.1.1.案件概要

 東京地裁で平成18年に判決が出た事例を紹介します。京都の事例です。
 簡単に言うと、売買された土地について、後日、鉛等により汚染されていることが判明したため、買主(X1)とその包括承継人(X2)が、売主Yに対し、錯誤無効・瑕疵担保責任・債務不履行責任を理由として、土地の代金の返還と損害賠償を請求して裁判を起こした事例です。

 この土地はもともと、Yが機械等の解体作業用地としてA社に貸していて、自社でも一部使っていました。この工場が操業停止になったのが平成5年です。同年、会社更生の手続きを申し立て、平成6年から手続きが開始されました。
 会社更生の際にこの敷地を売ることになりました。そして、会社の更生計画案が認可され、かつこの不動産の抵当権が完全に消滅するという停止条件をつけて、平成7年9月にX1と売買契約を結びました。平成11年に更生計画の認可がおり、停止条件が成就したので、代金決済、不動産の引き渡し、所有権の移転登記を行いました。
 平成14年に、B社からこの土地の一部を売ってくれないかという話があったので、X1とB社がその交渉に入ったところ、土壌汚染のチェックが必要だということになりました。そこで土壌汚染調査を実施したところ、環境基準を超えるふっ素及び鉛が出てきました。これは土壌汚染対策法が施行される前ですので、土壌汚染対策法の対象ではありません。
 そのあと、X1は会社分割をしてX1とX2になり、最終的にはX2がこの土地に対する権利義務を取得しました。X2が土地を開発しようとしたところ、町や府から土壌汚染対策をするようにとの指導を受けました。そこで追加調査をして、汚染を除去して完了しました。
 X1はこの土地が汚染されていることを知らないで買ったのですが、土壌汚染を除去するコストを被らなくちゃいけなくなったので、もともとこの土地を持っていたYにその費用を賠償請求したという事件です。


3.1.2.錯誤無効

 どんなことが争点になったかといいますと、まず土壌汚染があるのにないと信じ込んで買った、つまり錯誤だから、契約は無効だという主張をしました。
 錯誤(意思表示の錯誤)とは、内心的効果意思(心の中で思っていること)と表示的効果意思(実際に表示してあるもの)の不慮の(意識しないで、うっかり間違って)不一致です。例えば、10万円で買うつもりだったのに、うっかり100万円と言ってしまったなど、値段や数量等について、心の中で思っていた法律効果と、実際に口に出てしまった法律効果が食い違ってしまった場合です。

 錯誤無効だと言われるためには、勘違いした内容がその取引にとって重要なものでなければなりません。これを要素の錯誤といいます。
 要素とは、各法律行為において表意者が意思表示の内容部分となし、この点につき錯誤がなかったならば意思表示をしなかったであろうと考えられ、かつ、表示しないことが一般取引の通念に照らし妥当と認められるものをいいます。
 要するに、こんな大事なことが分かっていたら取引はしなかっただろうという事柄です。

 それでは、土壌汚染は要素の錯誤にあたるのでしょうか。
 裁判所の判断は、土壌汚染は物の性質の錯誤であり、意思表示するにあたっての動機の錯誤だということなんです。
 動機の錯誤とは、取引の当事者間では話に出ていないけれども、心の中で当てにしていた部分が間違っていた場合をいいます。例えば、この土地は近くに新幹線が通る予定だから値上がりするはずだと、買い手がひそかに思って買ったら、実際は値上がりしなかったなどの場合です。
 裁判所は、特に動機を表示しなければ、重要な要素の錯誤として錯誤無効を主張するのは無理だという考え方をとっています。つまり、動機の錯誤は原則として考慮されません。有利だと勘違いして手前勝手な理由で買っても、当てが外れたからといって、それだけだということです。

 ところが取引の中で、売り手も買い手も、この土地は新幹線が通るから値上がりすることが確実だという情報を共有していて、それを表示しながら、そういう土地として値段をつけたケースであれば、要素の錯誤となって、錯誤無効が成立します。つまり錯誤無効だと言われるためには、動機が表示されなければなりません。
 そのためこの案件の場合は、転売目的があったかというのが争点の一つになりました。土壌汚染が問題になれば売れなくなりますので、転売目的があったとはっきりすれば、土壌汚染を相当重要視していることを相手方に示していたことになります。
 結局、X1とYの間で転売目的が重視された節は見当たらないという判断でした。あくまでも動機の錯誤で、要素の錯誤にはあたらないので、錯誤無効によって契約を無効にするのは認められませんでした。


3.1.3.瑕疵担保責任に基づく損害賠償

 次の争点は瑕疵担保責任です。
 本件の場合、不動産の価値が8億5000万円、土壌汚染の除去費用が1億7000万円であり、除去費用の割合が少ないので、契約の解除はできないという判断をしたうえで、損害賠償の義務があるかどうかが争点になっていました。

 瑕疵担保責任は、売買で発生する瑕疵に対する無過失責任です。瑕疵とは、売買の目的物が、その種類のものとして取引通念上、通常有すべき性状を欠いていることです。
 以前は土壌汚染は瑕疵なのかが問題になっていましたが、今は瑕疵であるという結論で争いはありません。また、土壌汚染は外見からは発見できず、調査が必要なので、隠れた瑕疵にあたります。

 商法526条によると、買主が目的物を受け取った時、遅滞なくその物を検査した上で、瑕疵を発見した時はただちに売主に対してその通知をしなければなりません。ただちに発見することができない瑕疵がある場合には、目的物の受領後6か月以内に瑕疵を発見して、その旨の通知をしなければなりません。
 こうすることで、民法570条の瑕疵担保責任と同じ責任を問うことができ、使えない土地であれば契約解除できますし、価値が低減する場合は損害賠償を求めることができます。

 本件の土壌汚染も、隠れた瑕疵にあたりますので、民法570条や商法526条の適用があるケースです。
 しかし本件の場合には、平成11年に決済されて、平成14年に土壌汚染が判明していますから、X1は半年以内には売主Yに汚染されていると言っていないんです。ですから裁判所は、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求や契約解除ができないという判断をしました。

 土壌汚染は隠れた瑕疵にあたりますが、外見から分かることが少なく、調査にも長期間を要するため、土壌汚染の事実が判明しても、業者間の取引の場合には、瑕疵担保責任追及のための期間制限にかかっている場合がほとんどだと考えられます。ですから、瑕疵担保責任はなかなか問えないのではないでしょうか。
 そのため、契約書などにおいて予防策を講じる必要があります。


3.1.4.債務不履行に基づく損害賠償

 もう一つの争点は、債務不履行責任です。これがこの裁判例の特徴で、債務不履行(説明義務違反)にもとづく損害賠償請求だけは認められたんです。
 説明義務違反とは、契約当事者間に情報格差等がある場合には、契約締結過程ないし契約内容等に関して、優位者に信義則上の説明義務を課し、説明を受けられないために適切な契約締結判断等の機会を失った場合には、損害の賠償責任を認めるという考え方です。契約の本体ではありませんが、契約全体からみれば付随義務として、契約と一体の義務だと認められています。

 本件の場合、買主が土壌汚染の有無の調査を行うべきかについて適切な判断をするためには、売主Yに土壌汚染が生じているとの認識がなくても、土壌汚染を発生せしめる蓋然性のある方法で土地の利用をしていた場合には、土壌の来歴や従前からの利用方法について、買主に説明すべき信義則上の付随義務を負います。この土地は解体工事などに使っていましたので、本来は売主が、汚染の可能性があると言っておくべきだったということです。
 土壌汚染一般の規範として、このような信義則上の付随義務を確立するかどうかは、まだ若干の争いがありますので、今後の判例の集積が必要です。しかしこの案件のように、錯誤無効も瑕疵担保も認められない事案であっても、説明義務違反として債務不履行責任を問う場合があります。

 損害賠償の範囲については、X1が本件土壌汚染調査を行う必要はないと信頼したことによって、瑕疵担保責任を追及する機会を失ったことにより被った損害の賠償をする責任を負うべきである、との判断でした。スティグマによる評価損は立証が難しいので、考慮されていません。
 土壌汚染の除去費用からすると、損害賠償は1億8000万円ぐらい請求できたようですが、この判決では7500万円の損害賠償を認めています。なぜかというと、会社更生にかかった土地の売買は汚染がなくてもすごく難しいので、買主は何年間もこの土地を買うか買わないかで迷っていました。その間に土地についての情報は相当やり取りしていますから、買主もその情報を知り得る可能性があった。瑕疵担保責任の場合も、買主に悪意や重過失があった場合は責任を問えないという条項があるんです。それと同じように、調べれば分かることを十分調べなかった点で、買主側にも過失があるとして、過失相殺をして4割の損害賠償請求を認めました。

 この件は控訴されていますので、結論がどうなるかはまだ分かりません。
 しかし、契約の中で錯誤無効や瑕疵担保責任が入っていないケースでも、十分な説明ができていないために責任を問われることがあるという点で、新しい判決だったと思います。

 また、その他の法律構成としては、汚染されていることがはっきりと分かっていて売る場合は、詐欺取り消しにあたりますし、消費者契約法にもとづいて、消費者保護のために取り消しになる場合もあります。


3.2.事業者・土地所有者のリスク

 事業者のリスクとしては、刑事責任として、刑法上の詐欺罪があります。
 また、宅地建物取引業法違反に問われる可能性もあります。
 例えばOAP事件では、警察は当初は詐欺罪を考えていました。汚染隠しがあったので、汚染を知っていて売ったのではないかと問題になりましたが、詐欺の立件は要件的に厳しいということで見送って、宅建法で立件したんです。ところが、それは免許の取り消しという効果を伴うということもあって、三菱地所側がこれを考慮して一気に譲歩し、解決に至ったという流れがありました。

 土地所有者のリスクとしては、まず土壌汚染対策法上の責任があります。調査をしたり報告をしたり、除去等の措置をしたりという責任です。
 もう一つは、隣地の汚染に対する責任です。隣の人は、例えば汚染された地下水が流れてきたり、汚染土壌が飛んできた場合、それを排除するために、所有権にもとづく妨害排除請求、あるいは妨害予防請求ができます。遮水壁や塀を造るように要求したり、実際に汚染が発生したら、それに対する損害賠償請求ができます。
 また、不法行為に基づく責任があります。不法行為というのは、契約の当事者間ではないところで発生する、偶然的なものです。民法709条に規定されており、契約関係がある場合と同じように、損害賠償責任が認められます。近隣住民に対する健康被害の問題等が発生すれば、それに対して不法行為に基づく損害賠償責任に問われる可能性もあります。