エコロジー研究会
2007年を展望して
エコロジー研究会会長 井上 健雄
エコロジー研究会(H18.12.15)より

消費の拡大

 2007年がどういう年であるか、私がいろんな本を読んだり、いろんな識者に話を聞いたりして、読みをしていることをお話したいと思います。
 まず、非常に楽しみな年になるだろうと思っております。景気拡大が持続し、戦後最長を更新し続けるでしょう。今までは3つの過剰がありました。1.雇用、2.設備、3.債務。この3つの過剰がなくなってきました。大手銀行でも不良債務が2%を切っています。これによって、まだ景気拡大を続けるんではないかと思っております。
 そして、それを下支えするのが個人消費、それも団塊ジュニアの消費です。団塊ジュニアといいますと、31〜35歳で、800万人います。この800万人の購買力が、日本経済の牽引力になるだろうと読んでいます。さらにこの800万人は、LOHAS、つまり環境と健康に良い持続的な消費を続けると考えられます。
 それに加えて、日本には新富裕層が出てきました。今、5億円以上の所得をもっているのは6万世帯あります。1億円以上では78万世帯です。ということは、日本の総世帯数は5千万世帯を少し割るくらいですから、64世帯に1世帯は1億円以上の所得があるということです。今日は64人にはちょっと少ないですが、この中にも1人か2人、いらっしゃる筈ですね。
 これらの理由で、2007年は消費の拡大はどんどん進みます。そういう意味で、2008年はインフレになるんではないかと思っております。それにつれて、2009年には消費税が8%ぐらいになるんだろうと読んでいます。


格差本格時代の到来

 これを踏まえて、2007年の為に何をおさえたら良いかということでまとめてみました。
 一つは、これから格差本格時代になるということです。安倍政権は格差是正元年と言っていますが、格差はこれからどんどん広がっていきます。
 だからニートや落ちこぼれが増えてくる。それから、どれだけ働いても月収が10万ちょっとにしかならないというワーキングプアが溢れてくる。
 それにつれて、犯罪が増加する。これはもう間違いないです。今日も新聞を見ていたら、大人の暴力犯罪がものすごく増えているんですね。20数パーセント増えています。子供がキレるだけではなくて、大人もキレだしています。

 そういう時代になりますと、それぞれが繭に入り始める。これをコクーニングといいます。コクーニングというのはアメリカで使われる言葉で、日本では殻に閉じこもると言いますね。
 かつては繭といっても、一人で車に乗って車空間を楽しむとか、そんな良い空間でした。ところが今は、そこからだんだん逃避して、部屋へ閉じこもる。いわゆるひきこもりですね。それで開けたら「見たな」と親を刺してしまう。
 いじめもそうです。一番いじめをする子が、大体一番いじめを受けやすい子です。自分がいじめられないために、いじめをするのです。防衛の為に。
 それから社会的にも、クラスに閉じこもる。以前は日本では中流クラスが一番多かったですね。そして中流クラスは上流クラスになることはあっても、あんまり下流クラスには落ちることはなかった。ところが今は中流クラスがどんどん少なくなってきて、どんどん下流クラスに落ちていく。芦屋では邸宅条例ができて、芦屋には貧乏人は来るなということになりました。これは観光資源として名所を維持しようとしているわけですが、やはりゲートコミュニティーというか、ゲートを創って、そのゲートから入れないという社会になってきています。

 苅谷剛彦氏は「階層化日本と教育危機」で、母親の学歴が子供の勉強時間に与える影響を述べています。母親の学歴によって、高2の受験を控えている子供の勉強時間がどう変わるかについて、1979年から1997年の変化を調査しています。
 母親が大卒の場合、79年には子供の勉強時間は123.2分と、2時間以上勉強していました。ところが97年には106.3分と、17分落としました。母親が短大卒では、79年には大卒家庭よりよく勉強して124.9分でしたが、97年には85.4分と、40分落としました。中卒では、79年には86.5分でしたが、27.4分に落としているんですね。これは60分の減少、減少率は68%です。
 勉強時間がそのまま学力に直結するとは思いませんし、大学を出た母親の方が塾などにかけられるお金をもっているとも一概には言えませんが、やっぱりよく勉強した母親の子供はよく勉強して、いい大学やいい企業に入っていく。母親が中卒だと、子供は27分しか勉強していないんですよ。やっぱりこの時間で学力をつけるというのは、普通の子は無理ですね。天才や頭のいい子は勉強しなくてもできますが、一般的に勉強時間が持つ影響は非常に大きく、この少ない勉強時間数でリカバリーショットを打つのは難しいと思います。

 このように、どんどん格差が固定化されていく社会に入った。そうすると明らかに二つの国民が出てきます。下層に位置付けられた人は、キレたり犯罪を起こす。決めつけではないですが、その可能性が高い。だから皆がそれぞれの繭に入りだしたのです。
 コクーニングの時代に流行るのは、宅配ですね。宅配ピザの業界などは、よく業績が伸びているんですよ。それから買い物でも外に行かないで、インターネットショッピングをする。外で食事をすることも減ってくる。そうするとホームパーティーやホームファニッシング、ホームインプルーブメントなど、売れるものが変わってくるわけですね。それが小売業にも非常に大きな影響を与えてくる。
 ひょっとすると、アメリカも国としてコクーニングするかもしれません。イラクで失敗して懲りたので、共和党政権はだんだんアメリカにこもりだす。かつてアメリカはモンロー主義といって、閉じこもった時期があったんですが、来年はそういう閉じこもりが始まる年になるんじゃないかと思っております。


高齢化と人口減少

 2番目の大きな問題は、高齢化という高まるものと、日本の人口という低くなるものとの相克です。
 高齢化は波じゃないんですよ。波なら終わったら後は元に戻りますが、戻らない。潮位が変化して、上に伸びたままなんです。一方、人口は減ったままになる。
 団塊の世代とは1947年から49年生まれの方を指しますが、この世代が2007年から企業の第一線を退いていきます。定年ですね。団塊の世代は670万人おりまして、このプレゼンスは非常に高い。この世代は、日本の労働者としては最も優秀な世代なんですよ。それが退き始めてくるということは、企業にとっても大きな問題が出てくる。
 この問題への対策の骨子は、定年延長という物理的な手段と、処遇というソフトを充実させることだと思います。このようなことが企業で取り組まれていますが、それではなかなかうまくいかないだろうというのが私の読みなんです。
 この世代が退職して本当に困るのは、2010年なんです。その頃から多分、人口と労働者の減少はものすごいウエイトで効いてくる。だから今から手を打っていかないといけない。
 政府は、2013年には定年を65歳にするという法律を創ります。高年齢者雇用安定法の改正ですが、本当はこのときには全然意味がないんです。
 能力がある人は、いくつになっても職はなくならない。だから能力のある人はローリスクで、必ずハイリターン。高い報酬を受ける時代なんです。一方、能力のない人は、いつでも雇用におびえ、ローリターンです。だからハイリスクローリターン。今まではハイリスクハイリターンで、リスクが高いと高い所得が得られたんですが、これからは能力によって変わってくる。そうすると、1番目で申し上げたのと同じように、2種類の国民が生まれる。
 人口減を経営課題として申し上げます。日本の現在の総労働時間は1年間で1210億時間ですが、2030年には800億時間になると言われてるんです。35%も減るんです。2007年でも15億時間減ると言われています。15億時間ってどういうことかというと、へとへとに働いて1人あたり年間2000時間です。15億時間を埋めるには75万人必要なんですよ。100人の会社だったら7500社、これがなくなるようなイメージなんです。この労働時間の減少というのは、非常なボディーブローをもって企業にのしかかるということを申し上げたい。


終わりに

 最後に重要なことは、法律の改正問題です。憲法改正と教育基本法改正があります。憲法が改正されるのは、多分、随分先です。これから5年から10年かけて決まりますが、皆さんにも考えてもらいたい。やっぱり国民として、憲法は重視しなくちゃいけない。9条を解釈改憲にするのか本当の改憲にするのか、環境権のようなものを憲法に謳うかどうか、こういうことを市民レベルでもきちんと討議していくべきです。教育基本法も、学歴の問題や競争激化、バウチャー制度など、これから一層二極化が広がる時に、もっと考えなくてはいけないと思います。
 これ以外の波乱要因として、米国経済において、今好調な住宅事業が多分来年は下がっていくだろうと言われています。また、原油がもっと高騰する可能性がある。それから北朝鮮有事が起これば、この読みは一気に変わるわけですね。
 日本では安倍さんが共謀罪というのを創ろうとしています。これは皆さん、本当に注目しなければいけませんよ。例えば近くにマンションが建つらしいから反対しようと言ったら、業務威力妨害罪で捕まる可能性があるわけです。
 このようにいろんな問題が、これからどんどん出てきます。だからやっぱり市民は賢くないといけない。
 そういう意味で、2007年はきちんと信号を観ていないといけません。赤で突っ込んだらケガをしますし、青でも周りを見ていないと、不注意な車が突進してくる、そんな時代に入ったんです。
 でも基本的に2007年は青信号だと思います。きちんと能力に裏打ちされた仕事で進んでいくと、必ず立派な花を咲かせることが出来ると思います。

目次へ●●● 文頭へ●●● 次へ