エコロジー研究会
衆知創発
エコロジー研究会 会長  井上 健雄 
エコロジー研究会(H19.12.21)より

■「義」「護」「植」をキーワードに

 三国志の時代には「魏」「呉」「蜀」という三国がありました。「魏」には漢詩のうまい曹操がいましたし、「呉」には孫権という水軍の扱いに長けた将軍がいて、「蜀」には有名な劉備や諸葛孔明がいました。
 この1800年前に戻ったように、「偽」「誤」「触」に揺れる今日この頃です。
 新聞にこんな話が載っていました。『中国で種をまいたら、生えてきたのは雑草ばかりだった。偽の種だったんです。農民はこれでは生活できないと言って、果敢無んで農薬を飲んで自殺を図った。ところが、その農薬も偽物で、死ねなかった。助かってよかった、お祝いだといってお酒を飲んだら、偽のお酒でみんな死んだ。』
 これは笑い話ではなくて、中国では偽の酒や偽塩、偽醤油などが、実際にあるんです。
 そんなわけで、「偽」がキーワードの世の中なんですが、やはり本筋の生き方は、正「義」を守って、環境問題を「護」る、木を「植」えたりしてCO2を減らす、この「義」「護」「植」で楽しめるものであるといいなと思います。


■衆知創発1:ボーイング787

 それでは、今日のテーマの「衆知創発」に入りたいと思います。
 お配りした資料の最初にボーイングの写真が載っていますが、ここではボーイング787をどのように創り出したかということを紹介します。

 ボーイング787のプログラム統括者マイク・ベアは、各社が持っている中核資産だけを残して、他はパートナーに頼るというビジネスモデルを創造しました。
 ボーイング777は、プロデューサーとサプライヤーにおけるアウトソーシングで造っていました。ところが787を造るときは、リードする企業とサプライヤーにおけるマスコラボレーションに変わったんです。
 また、777の時は秘密主義と階層構造で、サプライヤーを下に位置付けていたんですが、そうではなくなった。オープン化したんです。業界の中でベストのアイデアや能力を持ったところを仲間にするというのが、オープン化です。
 それから、777ではパートナーとサプライヤーは詳細設計の最終段階に入るまで開発チームに関与しませんでしたが、787ではサプライヤーをパートナーとして、あるいはピア(競争相手)として、早い段階から関与させています。1,000社を超えるサプライヤーが関与しているんです。これはものすごく賢い取り組みでもあるんですね。サプライヤーを下に置いておいたら、何かあったら全部自分がリスクヘッジしなくてはなりませんが、対等なパートナーであれば、リスクを分担してもらえる。それがリスク分散です。それでいて、知識は共有してリアルタイムのコラボレーションが可能になる、凄い価値創造だと思います。
 サプライヤーとのコラボレーションだけではなく、787では消費者とのコラボレーションも行われました。設計チームに乗客の代表が参加していたんです。また、787のプロモーション用webサイトには、飛行機に望む機能を自由に書き込めるようになっていました。
 さらに、777では最終組み立て工程は13日〜17日かかりました。1万個もの部品を全部ワシントンの工場に集めて組み立て、うまく合わない部品は作り直していたのです。一方787では、3日間で組み立てられるようになりました。それはレゴブロック方式でモジュール化したからです。70%〜80%部品はパートナーが設計し、作り上げています。
 これらの結果として、777では2500ページもの仕様書が必要だったのに対し、787ではたった20ページの仕様書で済みました。

 このようなグローバルコラボレーションが可能になったのは、ボーイングとダッソーシステムズが開発したシステムにより、リアルタイムのコラボレーションが可能になったからなんです。これにより、設計の段階で問題点や不整合個所を発見したり、複数の部品を同時に設計することができるようになりました。
 また、飛行機に状態監視システムが搭載されていて、異常発生の可能性をリアルタイムに発見して乗務員に警告し、地上のコンピューターにも報告することができるんです。これによって、飛行機が地上に降りる前に部品の発注や保守チームの準備を整えることができ、保守費用を30%も削減することができました。
 このように、設計・製造だけではなく、使用や保守まで含めた飛行機のライフサイクルを通じて検討するという、航空機関連データを「ゆりかごから墓場まで」管理するプロジェクトになっています。

 ボーイング787のビジネスモデルの成功は、コラボレーションにより知識が漏れるリスクよりも、専門に特化してコラボレーションすることで効率を向上させるメリットの方が大きいということを示しています。


■衆知創発2:ファブレス自動車会社

 次に、ファブレス自動車会社というビジネスモデルを紹介します。
 ファブレス(Fabless)とは、Fabric less、つまり工場を持たないということです。BMWなどのトップメーカーでは、このような車の創り方をしているんです。

 今までの自動車メーカーは、車を造るために企業城下町を形成し、その中で設計から製造までの全てを行っていました。
 ファブレス自動車会社では、世界中に展開する研究開発ネットワークにより、何千人ものスキルとノウハウを全員に伝達し、革新と製造をスピードアップさせています。結果的に、設計、製造、組み立ての70%近くが世界的なサプライヤーネットワークにより行われています。
 メーカーの研究開発の中心は、機械的なインフラストラクチャーから、ソフトウエアやドライバーとのインターフェースへと変わってきています。メーカーはブランド力の向上やコンセプトの構築、顧客サービスに注力しているんです。

 このような世界的ネットワークによる革新を成功させるために、例えばBMWでは、イノベーション評議会を作りました。開発、製造、購買、マーケティング部門の代表が、ひとつひとつの革新について、その潜在能力を判定しているんです。
 また、積極的なコラボレーションによりサプライヤーとの距離を縮め、開発パートナーとして効率的な分業が可能になったということもポイントです。BMW5シリーズのステアリングシステムをフリードリヒスハーフェン社と共同開発したり、小型ガソリンエンジン開発でプジョーとコラボレーションしたりすることで、開発の費用とリスクを分け合っています。
 さらに今後は、消費者の声を盛り込んで、消費者ニーズを満足させる製品を完成させる方向へ向かっています。


■衆知創発3:ギーク・スクワッドとベストバイ

 最後に、ギーク・スクワッドとベストバイを紹介します。
 ベストバイはアメリカでNo.1の家電量販店で、年商390億ドル(約4兆2900億円、2008年8月9日現在)に近い売り上げを創っている会社です。そこがギーク・スクワッドというコンピューターの修理会社を買収したんですが、ギーク・スクワッドの方が経営能力を発揮して、ベストバイを経営しているような、そんなイメージなんです。

 ギーク・スクワッドは、ロバート・スティーブンスが1994年に作ったコンピューターの修理やメンテナンスをする会社です。
 ベスト・バイに買収された現在、全米700か所に12,000人のサービスエージェントを擁していて、サービス収入は10億ドル(約1100億円、2008年8月9日現在)近くにも上ります。

 ベスト・バイでは、エージェントが自ら、最も効果的で効率的なコラボレーションツールを見つけ、使いこなしています。
 例えば、オンラインゲームを通じてノウハウを交換したり、ウィキ(インターネット上の文書を書き換えるシステム)で新製品の開発を行ったりしています。その結果、エージェントが設計開発したユニークで実用的なUSBメモリがドイツの有名な設計賞を受賞しました。
 また、スターウォーズの新作が封切りになるとき、「映画館に何時間も前から列ができるだろう」などの「前日譚症候群」の大量発生予言をプレスリリースして、広告として大成功させました。

 このような、新しいウェブツールを使いこなす若者に適応できる企業が、大きなメリットを手にするんです。ブログ、チャットルーム、パーソナルブロードキャストなどのツールは、個人のコミュニケーションやコラボレーションの生産性を大きく向上させます。それによって、組織というタコつぼをたたき割り、顧客、パートナー、サプライヤーなどの自社のエコシステムに価値を付加してくれるさまざまな参加者とつながって、グローバルに行動することができます。

 最後に、ベスト・バイのボトムアップ型イノベーションを紹介しましょう。
 CEOのブラッド・アンダーソンは、顧客中心主義戦略を採用しており、マーケットリサーチによる販売データや人口統計データよりも、現場で毎日顧客と接している社員の知識を重視しているんです。
 現場の声を経営陣に届けるため、店長ギル・デニスがGMフォーラム(現在のリテール・リーダーシップフォーラム)を発案しました。現場の社員にしか分からない顧客の悩みや不満、地域コミュニティに関する知識、日常業務改善のアイデアなどを話し合い、直接経営陣に働きかけています。
 ベスト・バイでは、社員全員が自分で戦略を考え、売り上げや利益を増やすアイデアを見つけ、試すことが推奨されています。そして各店舗で革新を行い、異なる客層のニーズに応えることが求められています。
 やはり成功している企業は偉いなぁと思います。小さな企業なら、もっと工夫し頑張らないと、格差は縮まりません。

 このように、衆知創発、つまりいろんな人が集まれば新しい知識ができるんです。その知識を市場に受け入れて貰えれば、倍、儲かるんです。
 このエコロジー研究会の衆知創発によって、皆様の会社がどんどん大きく儲かれば万々歳です。
 この衆知創発の前提には、必ず傑出したリーダーが必要です。孫正義や澤田秀雄やヨルマ・オリラ等々、この固有名詞の続きに皆さんの名前が出ることを楽しみに致しております。

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