Ecology
プランBという生き方
イー・ビーイング理事長 井上 健雄 
環境サークルでの講演より(抜粋)


1.プランAとプランB
プランA:
環境を破壊する従来どおりの生き方
水不足、土壌の流失、気温上昇など
  → 問題はさらに悪化し、結果的には経済をも破綻させる
プランB:
環境破壊の流れを変える新たな生き方
水の利用効率を高める、土地の生産性を高める、炭素排出量を減らすなど
  → 破滅回避の唯一の選択肢
2.プランBによる破滅の回避
(1)水の利用効率を高める
(a)水の価格の見直し
水の価値を反映した水価格を設定すると
使用者の節水意識が高まる
水効率の高い灌漑法・産業プロセス導入
水効率の高い家庭用品の購入
低所得の使用者を守るために
南アフリカ「ライフライン・レート」
  各世帯が水を一定量まで安く使える
地下水の過剰揚水を防ぐために
地下水の使用量をメーターで確認・課金
水利権者や井戸所有者が水を売れる
  水をより付加価値の高い利用者に自由に譲渡することが可能に
(b)灌漑用水の利用効率を高める
水効率の高い灌漑技術を利用する
旋回型のスプリンクラー散水(ピボット灌漑)
  高位置からの散水のため水が蒸発
低圧スプリンクラー
  低位置からの散水のため、蒸発が減少
点滴灌漑
  根元に直接水を供給する
給水をきめ細かくコントロール
   → 収量増加
送水パイプを地中に埋め込む
   → 永久的に利用できる
一時的に給水する簡易タイプ
労働集約的
   → 労働力過剰な途上国に最適
レーザー水準器による土地形状の均平化
  湛水(たんすい)灌漑(水田など全体に水を張る)、畝間(うねま)灌漑(畝の間に施水)に効果的
作物生産の効率を上げる
生産量を拡大して水の生産性を上げる
水効率のよい穀物へのシフト
市場が望む高付加価値作物への切り替え
その他
水源と農場をつなぐ水路の漏水を減らす
灌漑システムの管理責任を地域の水利関係者に移管
  住民の経済的利害が絡む
  → 適切な水利用
(c)雨水に頼る農業を安定させる
水不足の原因
  季節により降水量にばらつきがあるため
大型ダムの問題点
建設用地が少ない
広い土地がダムの底に沈む
住民が立ち退きを余儀なくされる
地域の生態系にも修復不能な変化
地域レベルでの集水・貯水システム
雨水を集めて貯留する小さなアースダム
テラス状の斜面で雨を土壌に浸透させる
  水分が蓄積される
  → 植生が修復される
外縁に樹木を植える
  → 食料・薪になる
水と土壌の両方が保全される
  → 土地生産性が大幅に向上
地下水層の貯水能力を活用
  貯水施設から水が浸透
  → 地下水位が上がる
河川上流域の森林の再生
  → 地下水位が上がり土壌も保全
(d)生活・工業用水の利用効率を改善する
コンポスト型トイレ
水を使わないトイレ
生ごみも捨てられる
排泄物は発酵乾燥
  → 無臭で土のような腐植質に
     体積はもとの10%ほどに
     業者が定期的に回収し堆肥化
     養分の循環の回復
生活用水の使用量が減少
  → 水道代が安くなる
     揚水・浄水のエネルギー節約
ごみの減少、下水処理問題の解決
水利用効率の高い製品の使用
  シャワーヘッド、水洗トイレ、洗濯機など
水処理・リサイクル総合システム
  同じ水を再利用し続ける
  → 蒸発ロスはわずか
     生活用水の大幅な減少
化石燃料による発電の廃止
  冷却水の必要性が低下
企業をゼロエミッション工業団地に移転
(2)土地の生産性を高める
(a)作物の多様化
  多毛作の普及
灌漑用水、早く成熟する品種、豊富な労働力が必要
途上国の農村労働力の流出で多毛作減少
(b)タンパク質の生産効率を高める
飼料用の穀物
  動物性タンパク質の生産のための飼料用
穀物 … 穀物生産の37%
動物性タンパク質の効率的生産
  → 土地生産性を高める
飼料効率
  動物が穀物をタンパク質に変換する飼料効率には大きな差がある
飼料効率のよい動物性タンパク質へ
  → 土地・水両方の生産性が上がる
混養
  自然の生態系を応用し複数種の魚を養殖
(c)茎や葉を飼料に生かす
穀物の茎などを反芻動物の飼料にする
  反芻動物は独特な消化器官を持つ
  → 粗飼料タンパク質に変換できる
穀物を人間の食料として確保し、その茎や葉を飼料として動物性タンパク質を増産できる
粗飼料にアンモニアを混ぜると、胃の中で微生物の働きが促進されて消化がよくなる
(d)土壌や農地を保全する

                
表土・土壌の保全
畑に沿ってベルト状の防風林を造成
小麦の帯状栽培
  帯状の栽培地と休耕地を交互に並べ、年ごとに交代する
休耕地に土壌水分が貯えられる
栽培地が休耕地の風食を軽減
テラス状の畑作り
  雨水が表土を奪う土壌浸食を防ぐ
傾斜面の水の流れを弱める
緩やかな傾斜地では等高線耕作
土壌保全型農法(不耕起栽培と最小耕転法)
  最小耕転法
  種子をまく細い溝状の土壌を一回だけ掘り起こす
他の土壌は作物の茎・葉で覆う
  → 侵食が起こりにくい
土壌の消失量を減らす
土壌水分の保持
エネルギー使用量の削減につながる
優良農地を都市の拡張から守る
(3)炭素排出量を減らす
(a)エネルギーの利用効率を高める
再生使用不可能な飲料容器の使用禁止
  エネルギー・水使用量、廃棄物量減少
白熱電球から小型蛍光電球へのシフト
  消費電力が白熱電球の1/3、寿命は10倍
自動車の燃料効率を引き上げる
  ハイブリッド・カーに換える
都市交通システムを再構築する
  必要に応じてバスで補完される近代的な都市型軽鉄道システムが基礎
自転車と歩行者に優しいより多様なシステムを構築
モビリティ向上、大気汚染軽減
運動の機会を提供
駐車場を公園に転換し、より文化的な都市を創造できる
(b)風力の活用
豊富な資源
決して枯渇しない
一度の発電施設建設で永久的に発電可
安価である
風力タービン構造の進歩
1キロワット時あたりの発電コスト
  1980年代初め 38セント
2001年 好立地の設備で4セント弱
環境に影響を与えない
  温室効果ガス、二酸化硫黄、窒素酸化物、有害な水銀を排出しない
水素の生産
水を電気分解し、水素の形で風力エネルギーを貯蔵
風力が弱いときには水素を用いて発電
水素は燃料電池エンジンに最適な燃料
内燃エンジンへの水素の使用
  ガソリンエンジンの水素エンジンへの転換
  比較的簡単で低コスト
水素燃料補給ステーション整備促進
  燃料電池車の大量生産の素地に
風力資源に恵まれた国は液化水素を輸出
(c)太陽光の活用
太陽電池の需要
送電網に接続されていない村落に需要
集中型電力システムからの電力供給よりも、太陽電池の分散的設置のほうが有利
資金援助
太陽電池の普及の障害
  購入費用を融通する小口貸付プログラムの欠如
政府の太陽電池に対する強力な優遇処置
  → 大規模な太陽電池産業が育つ
電力コスト
風力・火力発電所の電力コスト < 太陽電池による電力コスト
太陽電池産業の成長の加速、飛躍的コストダウンが課題
(d)地熱の活用
  発電と直接の熱供給の両方に利用
熱供給の場合は、温室、水産養殖場、工場の暖房、ヒート・ポンプなど
アイスランド
  人口の85%が住宅で地熱暖房を利用
北方の国々
  温室の熱供給源として理想的
中国、イスラエルなど
  水産養殖に地熱エネルギーを利用
  温水によって短期間でより大きな魚を、冬場でも出荷できる
(e)水素型エネルギー経済の構築
燃料電池の魅力
現在の内燃エンジンより効率が2倍
水蒸気しか排出しない
水素へのシフトを加速させる
水素生産に風力・水力・地熱・太陽からの電力使用で完全なクリーンエネルギーに
アイスランドでの取り組み計画
  第一段階
  首都レイキャビクのバス80台を燃料電池エンジンにすでに燃料電池バスのため水素ステーションを建設
  第二段階
  国内の乗用車を燃料電池エンジンに転換
最終的には経済の中核を担う漁船の動力を燃料電池へ転換
日本(屋久島)での取り組み計画
豊富な水資源を利用(小型ダム建設)
水素を生産、島民の需要を満たす
余剰水素を液化し日本本土に輸送
推定で自動車50万台分の水素を移出可
(f)炭素排出量の削減
エネルギー効率の改善
家電製品・自動車・ビル建築に新たなエネルギー効率基準を設定
公共交通機関中心のシステムに移行
  都市におけるガソリン使用量の削減
大気汚染の減少
身体を動かす機会をもたらす
再生可能エネルギー源へのシフト
風力が中心的役割
補助金のシフト
気候変動の要因となるようなエネルギー源への税金の引き上げ
公式・非公式の調達政策
  政府・地方自治体・企業・大学・住宅所有者などはグリーン電力を購入可
住宅に設置された太陽電池などの余剰電力を電力会社が買い取る
  節電の促進にもつながる
(4)社会的課題に取り組む
(a)世界人口の安定
持続不可能な社会
  長期にわたって人口の増加や減少が続く社会は持続不可能
およそ36カ国では、人口が安定しているか、穏やかな減少傾向
パキスタン・ナイジェリア・エチオピアなどでは人口倍増が予想される
家族計画サービス
  全ての女性に家族計画サービスを提供
1億組以上のカップルが避妊に必要なサービスを利用できていない
大部分は水不足が深刻化している国
イランの取り組み
  10年足らずで人口増加率をアメリカ並みに引き下げる
1989年、廃止されていた家族計画プログラムを再開
国家家族計画法が可決され、教育、文化、保健などの省庁を動員
農村部の保健・家族計画サービスのため、およそ1万5000か所の保健衛生所を設置
宗教指導者が直接関与
あらゆる避妊手段を無料で提供
結婚許可証発行前に近代的な避妊法の講習の受講を義務化
女性の識字率向上への広範な取組み
テレビを通じて情報を全国に普及
(b)基礎教育
女性への教育の家庭への影響
子供の食生活に活かされる
家庭の雰囲気がよくなる
貧困から脱出する鍵となる
少女への教育の少子化への影響
教育水準の向上とともに出生率は低下
出産時や乳幼児期の死亡率低下
家庭薬の注意書きが読める
妊娠中の健康管理法が理解できる
農業の生産性が向上
農業の改良普及に印刷物が使える
肥料袋、農薬の容器の注意書きが読める
HIV予防のために
学校で感染のリスクを教える
同世代への教育活動に若者自身が参加
教員の養成
一定期間教職につくことを条件に、貧しい家庭の優秀な若者に奨学金を提供
世界銀行「万人のための教育プログラム」
  初等教育普及計画を用意した全ての国に資金を提供する
(c)エイズの予防の強化
財源・医療要員の不足 → 早急な対策が必要
予防教育 → 感染源になりそうな社会集団
トラック運転手(売春を通じて国から国へと拡散する)
兵士(売春などで感染し故郷で拡大)
薬物乱用者(注射針の使いまわし)
性産業従事者
ウガンダの成功例
  成人の感染率がこの十数年間で14%から5%に低下
(d)健康の増進
  健康問題
  発展途上国
  感染症(エイズ、下痢性疾患、呼吸器系疾患、結核、マラリア、麻疹など)
先進国
  心臓病、ガン、肥満、喫煙
健康を改善するために
飢餓の根絶
小児病ワクチンの提供
WHOの主導による天然痘の根絶
世界の最貧層へのワクチン接種
数十億ドルの医療費などが軽減
安全な水の供給
  無水式の汚物処理システム
病原体を拡散防止
水不足の緩和
養分の農地への循環
大気汚染の軽減
自動車事故を減らす
喫煙を減らす
2003年 タバコ規制枠組み条約
アメリカの成功例
  一人当たりの年間喫煙本数44%減少
  2844本(1976年) → 1593本(2002年)
(e)学校給食の実施
飢餓・病気
  → 学校を欠席しがち、学校教育の中断、学校教育の中断
    → 成人しても十分に働けない
少女が受ける恩恵
  就学年数の伸び → 結婚年齢の上昇 → 出産する子供の数の減少
アメリカのWIC(女性・乳幼児)プログラム
  貧しい妊婦、授乳中の母親に食品、栄養補助食品を提供
アメリカ ルーズベルト大統領
  「進歩ということは、持てる者をさらに豊にできるかどうかではなく、持たざる者に十分与えられるかどうかによって試される」

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