エコロジー研究会
LOHASとは何か?
同志社大学経済学部教授 郡嶌 孝 氏 
エコロジー研究会(H17.12.26)より


政治運動としてのスローフード

 ・・・・・私がまだはっきりわからないのは、スローフード、あるいはスローライフの運動とLOHASとはどう違うのか。
 スローフード、これも日本ではちょっと誤解されているのです。ご承知のようにこれは1980年代の後半にローマ、イタリアで起こりました。そのとき連中はなんでスローフードということを言ったかというと、ローマの中心街の一番いいところにマクドナルドが入ってきた。それに対してスローフードだ、ということを言い始める。
 これが何で広まったかというと、最初に、ご承知のようにイタリアは共産党が強いのですが、共産党の機関誌の付録にローカルなフードのミシュラン的なモノを付録としてつけた。
 実はこれ政治運動なんですね。文化資本としての食を社会資本としての食に変える。これが本来の、変革のための彼らの政治運動です。グローバル化への反対、ファーストフードに対する反対。

食の階級性

 こういうことは今の日本ではまずありえません。日本はもう食の階級性はなくなっています。だから安全とか健康というのがスローフードになるのですが、向こうはそうじゃない。食に階級的なものがある。ましてやいくつかの食材の中には、もともとはある特定の階級の人しか食べられなかったものがある。
 日本でも昔だったらメロンというのは高級食材で、誰もが食べられるわけじゃなかった。うちはメロンをいつも食べているということになると、あそこは金持ちのぼっちゃんやなと。そのくらいシンボル食材があったわけです。
 これはいかに階級性とかそういうものをなくしていくか、という運動なんです。こういう発想法なんて、日本の中ではほとんど出てきません。そういう面から言うと、明確に民主主義の運動なんですね。階級性のある食というものをどうやってやっていくか。外国的ではなくて愛国的に、ローカル的な生き生きとしたネットワークを創っていく、食の文化を創っていくという政治運動だし、あるいは経済活動の新しいあり方を示すということが明確に見えてくるわけです。まさにライフスタイルとか自分の生き方を変えるものとして、スローフードムーブメントというのがありえるのだということなんです。
 単に健康や安全という形の問題ではないんだということを、我々はみておかないといけない。
 アメリカのジャンクフードに、我々の大地で育っている非常に生き生きとした地方のものをつぶしていかれる。それに対して地方のものを、自分たちの文化を守る。それでありながら一方では民主的な運動でもある。そういうものをどうやって解決するかというものが、外国でのスローフードであります。
 そうするとLOHASもある程度そういう意味を持っているのではないか、という風に今のところ私はみているんですけれど、まだそこまで分析はできていません。

時間価値とLOHAS

 もうひとつLOHASがわかりやすいのは、時間価値の話ですね。
 我々は豊かになった、その豊かさは何かというと、それは所得を増やすこと。所得を増やすということは何を意味しているかといったら、1時間今まで10円しか稼げなかったものが、1時間当たり500円稼げるようになったということですね。言い換えると、時間価値が高まったわけです。
 そうするとここで矛盾が出てきます。所得が増えるということは、金持ちになります。金持ちは時間価値が高まっているから、働かずに暇であったら、スローであったら、自分の価値を下げてしまいます。もったいない自分の価値の無駄遣いになります。そうすると、金持ちは時間持ちにはなれません。
 LOHASは金持ちと時間持ちとの間のバランスをどうやってとっていくか、という形の中で出てきている。

高級化、同時消費、連続化

 時間価値が高まってくると、3つの形しか出てこない。一つは、同じ時間価値の中で消費をしようということをみたら、より高いものを消費しないと豊かさが高まらないわけです。従って高いものが売れる。今だったら「レクサス現象」と言った方がいいです。言い換えると、高いものを持っていたら自分は金持ちに見えるし、豊かさを享受しているように感じる。そういう風に高級消費をしている。
 二つ目は、同時消費。いろいろなことを同じ1時間の間に2つ3つやる。食事をするだけじゃなくて、テレビも見ながら、あるいは新聞を見ながらということをやらないと、その時間価値がもったいないということになります。
 三つ目は何かというと、「AのことをしてBのことをしよう。その間を空けてしまったらこれはもったいない」という考え方ですね。そうすると連続させてやっていかなくちゃならない。連続だけれども細切れになる。
 このように時間価値の高まりの先にあるのは高級化、同時消費、連続化ということで、ますます忙しくなってくる。金持ちになればなるほど時間がもったいないから、金持ちは時間持ちになれない。そういう矛盾が基本的にこの所得を中心とした豊かさにある。

おわりに

 そこでどうするか。ボランタリー・シンプリシティといわれる、自分でライフスタイルを変えることによってドロップアウトするか。こういうラット・ゲーム、競争の中で豊かさを競うんじゃなくて、そこからどうやって下りてきて、ダウンシフトするか。恐らくそんな形の流れがLOHASですね。何らかの触媒があって、恐らくLOHASになったんだろうとみているんです・・・。この続きは是非2月17日のLOHASフォーラムで。


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