エコロジー研究会
グリーンサービサイジングの新傾向
同志社大学経済学部教授 郡嶌 孝 氏 
エコロジー研究会(H18.7.21)より
 グリーンサービサイジングについては、大分前から話してきた。
 最近の活動としては、1月1日の環境新聞に原稿が掲載される予定だったが間に合わず、CSRイニシアチブの特集号で使って戴いた。
 また去年の中頃、経済産業省の中村さんがたまたま新聞記事を読んで、グリーンサービサイジングの研究会と実際に事業を展開するための資金をつけて戴いた。
 そこから、急速にグリーンサービサイジングという言葉が出てくるようになった。

 今年度の循環型社会白書のコラム欄に、グリーンサービサイジングのことが記載されている。
 サービサイジングとは主にアメリカで使われている言葉で、ヨーロッパでは主にPSS(プロダクトサービスシステム)と言われている。
 基本的な考え方として、現代の中頃から次のような考え方が出てきた。
 ドイツのミハエル・ブラウンたちがやり始めた、インテリジェントプロダクトシステムというものがある。インテリジェントとは今日では情報を意味していて、サービスの一つである情報とプロダクトをどうやって結び付けていくかということになる。スイスのスターヘルなどは、それを機能経済と呼んでいた。今まではモノを売っていたのに対して、これからはサービスや知能を売るということである。
 問題は、グリーンサービサイジングにしてもプロダクトサービスシステムにしても重要なのはプロダクトで、機能やサービスを売るのがサービサイジングではないということである。

 今の社会は、ものづくりからサービス経済化していると言われる。
 サービス経済をそのまま訳すとサービスエコノミーとなり、サービサイジングに似ているようだが、サービス経済化とは古くはウィリアム・ぺティが提示したもので、明確な形でこれを実行したのはオーストラリアのコーリン・クラークである。よって一般的にはクラークの法則などと呼ばれている。
 おおまかな内容は、経済が発展するに伴って就業者が多くなるというもので、最初は第一次産業、次に第二産業、その後第三次産業ということで、これが製造業や工業からのサービス経済化である。

 サービス経済化についてわかりやすく書いたのは、アルビン・トフラーである。
 彼いわく、第一の波が農業工業の流れであって、第二の波が産業革命を中心とした産業社会、工業社会の進出、第三の流れがサービス経済化である。このように、ウィリアム・ぺティやコーリン・クラーク以外にも、アルビン・トフラーがサードウェーブといった形で表現している。
 さらにプラトンは、まず情報化社会がでてくる、そしてそれがサービス経済化を進めていく、すると製造業そのものは次第にその役割を終えていくことになると言った。

 なぜ今、サービサイジングという言葉が出てくるのかというと、サービス経済化という産業構造の転換を示すためにサービサイジングという言葉を使っているのではない。サービス経済化の中で、製造業をどうやって生き延びさせるかを示しているのが、PSSあるいはサービサイジングという言葉である。
 つまり、PSSやサービサイジングとは、単なるサービス経済化ではなく、製造業がサービス経済の中で変わってくるというものである。
 モノとサービスを結合させることによって、モノをどう売っていくかということが、本来のPSSやサービサイジングである。あくまでも、サービサイジングとはモノの売り方である。

 この議論が出てくるのがだいたい90年代のヨーロッパで、PSSにおいてサービス化することによって、環境負荷の少ないモノの提供を考える方向ができてきたのである。
 そして1992年の地球サミットでアジェンダ21が採択され、その第4章に先進国の経済のあり方、豊かさのあり方について記載された。先進国のものづくり、消費のあり方はアンサステナブルなコンサンプションであり、アンサステナブルなプロダクションである。従って、先進国はそれをサステナブルな消費にしていきなさいといったものである。
 そして、サステナブルなコンサンプション、サステナブルなプロダクションに変えることを求めているのが、2002年のヨハネスブルグの持続可能な発展に対する世界サミットの議論であり、その後はサステナブルなプロダクション、コンサンプションに関わる10年計画を作成するといった流れになっている。

 この流れの中で、我が国は2004年のG8の中で、循環型社会形成のための法律をつくって、2003年に循環型社会形成のための推進基本計画を立てると決定した。これが平成12年から22年までの十年計画である。十年計画を立て、我が国の経験に基づいて、昨年から3Rイニシアチブという形で国際会議を開いている。
 従って世界的には、サステナブルコンサンプションやサステナブルプロダクションの中で、このサービサイシングやPSSの可能性が言われるようになった。

 一方ヨーロッパではEUの全体の研究テーマになっており、一時はサステナブルプロダクションにおけるPSSやサービスサイジングに対する色々なビジネスモデルを、EU各国がネットワークの一部として構築しようとしていた。従って、個人としてPSSやサービサイジングに関わる研究は少なくなってきた。
 それに対しアメリカは、もう一つの政策的な流れとして世界的な廃棄物の問題に着目した。それに大きな影響を与えたのは、1986年にドイツが廃棄物管理法で、廃棄物になった場合、メーカー側が回収するといった回収義務をつけたことである。
 そして、1991年に拡大生産者責任という考え方で、メーカーに回収責任とリサイクル責任をつけている。これがその後、世界中に様々な影響を与えた。
 日本では、家電リサイクル法から拡大生産者責任を意識している。食品、自動車、建設廃棄物リサイクル法などもある。アジアやアメリカにも日本が影響を与えている。

 ドイツの環境省の方とのETRについての議論の中で、海外が将来的な課題としていたのは、モノを売るということはどうやれば変わるかということである。
 モノが機能している間は消費者のものだが、廃棄物になった場合はメーカーが回収しなくてはならない。有用な形で売ったつもりが、無用な形で帰ってくる。それは本当にモノを売っていることになるのだろうか?
 そうすると、レンタル・リースの形が出てくる。これはまさに、サービスや機能を売っている。
 これにより、アメリカでこのETRの議論がなされるようになった。レンタル・リースのような形で、強制的にETRによりテイクバックを義務づけるよりも、ETRに似たサービスサイジングという一つのビジネスモデルがテラス研究所により提言された。
 そのサービサイジングの意義をどう考えていくかというのが彼らの一つの考え方で、これらが90年代にヨーロッパで議論されていた。

 日本ではこのモデルの開発が遅れていて、2000年ごろから興味が持たれてきた。
 しかし、我々の興味は欧米とは異なり、サービス経済の中で、製造業が新たに生き残っていくための議論をしていた。製造業のサービス化の中で考えていくと、必ずしも全てのPSS・サービサイジングが環境の負荷を減らすわけではないということであった。
 従って、我々が関心を持ちながらやってきたのは、PSSやサービサイジングの中でもグリーンサービサイジングである。サービサイジングすべてが環境負荷を減らすわけではない。従って、環境負荷を減らすためのPSS・サービサイジングを考えていこうということで、サステナブルな形で製造業がありうるのかという議論をしたい。

 環境の側面からいうと、つくる段階での環境負荷を減らすことや、あるいはモノそのものの環境負荷を減らすことができる。だが、それらはせいぜいファクター2、組み合わせてもファクター4にしかならない。よって、モノを売るのではなく機能やサービスを売ることにより、ファクター8やファクター10を目指す興味がでてきた。

 環境を中心に研究している人たちの間で、このサービサイジングやビジネスモデルの中で、どれだけ環境負荷を減らすことができるかということが研究のテーマになってきている。
 しかし、実際に環境負荷を減らせるかどうかは疑問になってきている。これはタッカーなどがこのサスプロネットの中で出てきた色んなサ−ビサイジングのモデルを分析した結果、必ずしも環境負荷を削るものとは限らないと評価したためである。
 この評価により、アメリカやヨーロッパで、急速に研究熱が冷めてしまった。しかし、実際にそのことを実証研究した論文はない。従って、このPSSやサービサイジングによるビジネスモデルがどれだけ環境負荷を減らすのかということについては、まだ科学的な研究はなされていないのである。

 また、市場の中では売る側と売られる側というように、モノの所有の形態を変えるといった形で行われていたが、システムイノベーションのように機能やサービスを売るようになった場合、果たして需要者側に受け入れられるかという問題もある。つまり需要者側のモノの所有に対するこだわりであり、例えば車を全部レンタカーにすることなどが受け入れられるかということである。
 この失敗例として、北欧社会にパワーウォッシュというビジネスモデルがあった。コインランドリーのようなものであるが、需要者の「洗濯物は自分で洗いたい」という思いに反していたため失敗に終わった。
 このように心理的な抵抗があるために、「どのようにすればこのような需要性を持たせられるのか」という研究が行われている。

 従って現在、PSSやサービサイジングの研究の方向として、本当にどれくらいの環境負荷を減らすことができるのかという実際に計測をする問題や、「どうやったら社会的にこれが定着をするのか、とりわけ需要者に対してこれが受け入れられるのか」といったことが研究の主流になっている。
 例えば、北欧社会では、この社会的需要性において、エコビレッジという運動がある。このエコビレッジとは、環境負荷を減らす共同体のことである。共同体の中ではかなりの需要者に受け入れられているが、どうしても一般的な社会には浸透しにくい。
 その面からいうと、全てのPSSやサービサイジングに関する研究が完璧になされているというわけではない。政策的な対応の中で注目をされ、現実的にモノが売れなくなったことで、重要である。

 PSSやサービサイジングは、はじめから環境負荷を減らすためにできたものではない。もともとは企業が自社の製品のマーケティングターゲットを逃さないために、サービスを提供するといった形でビジネスプランを考えた結果できたものである。実際、様々な企業にPSSやサービサイジングの話を聞いてみると「もともと環境負荷を軽減するためにやり始めたわけではない」という声もある。
 「サービス経済に対応した形でどうやってモノを売るのか」という流れの中で、モノにサービスを付加して売るというビジネスモデルの目標の一つとして、「環境負荷を軽減しよう」という目標があり、その考えが普及したのである。

 グリーンサービサイジングを考えていく上で、PSSの定義をヨーロッパ的に考えると、いくつかに分類できる。我々がとらえている定義は「モノとサービスを結びつけ、ユーザーの要求を満たしながら環境負荷を軽減する」といったもので、オランダ政府の定義を踏襲するものである。
 オランダの定義をそのまま定義とすると、非常に範囲が狭くなる。なぜなら本来のPSSは「プロダクトとサービスのコンビネーション」ということで、必ずモノが必要となる。
 そうすると、エコサーブ業はグリーンサービサイジングの定義とは違う。エコサーブ業は電力というサービスと省エネというサービスを繋げているが、これを厳密にPSSの定義に当てはめてみると、サービスとプロダクトではなくサービスとサービスを提供しているため、グリーンサービサイジングとして扱われないということになる。
 しかし、我々はこういった産業もプラスアルファとしてPSSに入れていこうと考えている。
 また、廃棄物処理というサービス業に分別・リサイクルという付加的なサービスを行うことは、新たな「環境負荷を軽減するサービス」としてPSSに入ると考えている。

 そうすると、我々はPSSのメカニズムを分類できる。
 一つは使い終わったものの自主的回収機能(テイクバック)である。再利用して環境負荷を軽減できる。この中にはレンタル・リースなども入ってくるかもしれない。我々はエコレンタルと分類している。

 二つ目は製品寿命の延長化、つまり商品の耐久力をあげることである。例えば住宅業界がそうである。住宅を建てて、空き家になったら潰すのではなく、空き家になっても一部をリペア・リニューアルして、再び利用するといったことである。

 三つ目は利用形態に基づいたもので、インディベアユースとコレクティアユースであり、最もわかりやすい例が、自動車である。これはいわゆる「乗り合い」のことで、自動車を持っている人に持っていない人が乗せてもらうことにより、自動車の数を減らし、自動車による排気量を減らすことができる。また、カーシェアリングでは皆でクラブを創って車を皆で使うことにより、車の利用効率を上げることができる。

 四つ目は契約によって機能を保障していくというやり方である。重要なのはサービスや機能を使うことなので、それを保障していくということであるという。この有名な例は、アメリカに多く存在するケミカルマネージメントサービスである。内容は、自動車会社が自動車の塗装を専門の会社に委託するということである。これまで塗装の仕事は量を売っていたのだが、塗料の中には有害物質が含まれているため、環境規制により量が使えなくなった。量を減らしながらどうすれば儲かるかを考えると、できるだけ少ない塗料で、機能を保障していくことが必要である。これは飛行機や、宇宙産業でも使われている。
 日本の病院でもケミカルマネージメントが少しずつ考えられてきた。この時、管理をどれだけアウトソーシングするかということが重要である。部品調達から、最終的に廃棄する際に回収するといったビジネスモデルもある。
 サービスの保証ということでは、先ほどあげたエスコサーブ業が挙げられる。効率的供給とできるだけ省エネで電力の機能を保たせることなどである。
 また佐川急便などは、サードパーティロジスティックを行っている。これは、モノを創る間に色々な場所の工場に運ぶことで、ロジスティックが長くなり環境負荷が大きくなるということに着目して、部品のほうを工場から集めることで、ロジスティックを短くし環境負荷を軽減するということを目的に、流通センターの屋上などに貸し工場を創ることなどである
 このように考えると、リサイクルがサービスとして入ってくることもある。

 五つ目はIT化である。例として挙げるならば、インターネットが普及することにより、今まで現場で行っていた会議がネット上でできるようになり、現場に行くまでに与える環境負荷を減らすことができる。

 このように考えると、色々なビジネスモデルがある。
 例えば電力会社ならば、電力を多く売るという形を取れば二酸化炭素の排出量が増え、これは将来大きな問題になる。「電力の量を少なくしながら儲ける方法として、どういう付加的なサービスを提供するのか」を考え、そちらで儲けていく方法が必要なのである。
 これからモノが売れなくなり、どうやってモノを売るのかの付加価値をサービスに求めていく場合、我々が注目するのは、あくまでも「環境負荷をどうやって減らすか」である。
 その面からいうと、我々が調べた結果、日本ではしだいにこのような様々なサービス形態が生まれてきている。特に、中小企業における展開がよく見られる。大企業などでも多く受け入れられているのだが、実際、環境負荷の軽減を意識して行っている企業はまだ少ない。
 我々が考えている以上に、日本において、サービサイジングのビジネスモデルができている。さらに、中小企業の発想は非常に豊かになっている。

 その中で、「モノを売る」ことは「廃棄物を売る」ことに繋がると考え、できるだけ資源を少なくして本来と同じ機能を発揮するという点において、この環境ビジネスはエコ効率の新しい展開の仕方ではないかと考えられる。
 ただ、日本ではヨーロッパと違い、大企業などでアウトソーシングがなかなかしにくいという面があり、ビジネスモデルが日本独自のものになっていくだろうと考えられる。
 それに関しては、次回の会議の際に話をしようと考えている。

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