第3号 2006年9月15日発行


contents ご挨拶 「予見が変わる」
ご挨拶

エコロジー研究会
『グリーンサービサイジングの新傾向』

『取材現場における環境問題の変遷』

『NPO法人ええことネットの活動について』

書籍紹介

編集後記

CUOREトップページ
 予見とは、事がまだ現れない先にこうだろうと推察することである。
 このタイトルは、それが変わってきたということである。こうだろうと思っても、そうならない時代に入ったということを申し上げたいのである。

 かつて飛行機が音速を超えたとき、当時の飛行機はスピードが今ほど速くなかったため、降下する過程で加速し、音速を超えるといった方法をとっていた。
 もちろん音速を超えた後、上昇レバーを引くのだが、その上昇レバーが利かずにそのまま地面に激突してしまうという死亡事故が続いた。
 ところが、ある操縦士が上昇するために下降レバーを引っ張ったところ、飛行機は反転して上昇し、地上への激突を免れたのである。
 これは、音速以前の世界と音速以後の世界とでは真理が変わったということを示す。

 このように、新世界では真理が変わるのである。我々の世界における予見が変わってきたのである。
 その変わる予見を紹介しよう。

 ビヨンドABC分析というものがある。意味は「ABC分析を超えた」ということである。
 イタリアのビルフレッド・パレート(1848年から1923年)は、富の分析をしていて、2割の人が8割の富をもっているということを発見した。パレートが描いた曲線のことを、パレート曲線という。
 ちなみに、もともとパレートがそういう言い回しをしたのではなく、パレートは「世の中は平均的ではなく、バラつき、偏りが存在する」と言ったのである。
 また、そのおよそ100年後に、GE(ジェネラルエレクトリック)のH.F・ディキーという人によりABC分析が発明された。このABC分析が、先ほどの2・8の法則の世界である。
 そして、このABC分析の世界が段々通じなくなってきたということが、本日の内容である。

 縦軸を出版件数、横軸を品目として、本の出版件数のグラフを書いてみよう。
 今、日本の一年間の出版件数はおよそ7万件となっていて、3年間合計するとおよそ20万冊にも及ぶ。品目ごとの売り上げを見ると、Aの品目で6割、Bの品目で2割、そしてCの品目で残りの2割という売上高となっている。
 20万冊を横に並べ、一冊5mmとすると20万冊で1kmの長さとなる。よって横軸は1kmとなる。そして縦軸は、1000部を5mmだとすると、200万部売った本があったとして10mである。すると、本の売り上げグラフは下図のようになる。紀伊国屋などのリアルサイトでは、このような売り上げ図になる。
 一方、アマゾンドットコムは、リアルサイトでは売れなかった本で売り上げの5割をつくっている。



 米国のワイヤード雑誌の編集長であるクリス・アンダーソンは、13万冊を越えてからの本の売り上げがおよそ3割の売り上げをつくるのだと言った。しかし、リアルサイトの書店バーンズアンドノーブルは、13万冊を超えた品揃えを充実させていくということは困難である。ちなみにアマゾンの品揃えはおおよそ200万冊である。
 結局、ABC分析のCからの本の冊数で、売り上げの3割を作る世界ができたのである。しかしリアルサイトでは、13万冊が売り場面積などの都合により精一杯である。
 つまり、リアルサイトとネットの世界では真実が変わってきたということが一つである。
 また、アマゾンはおよそ200万タイトルを所有している。ということは、リアルサイトでは置けない本で売り上げを作っているという世界になっている。
 これが、ニューワールド、ビヨンドABC分析ということである。

 ここでもう一つ付け加えたいことは、アップルはネット上のミュージックストアで150万曲くらいの曲を売っているが、一度もダウンロードされていない曲は一曲もないということだ。150万曲という数は、リアルサイトで持つことはほぼ不可能である。
 ここでも全く違う世界が出てきたということである。ということは、今の世界はA品目に入る大ヒット曲に依存する必要がなくなったということである。
 これがビヨンドABC分析である。では皆さんはどっちの世界で戦えば良いのでしょうか。

 此岸と彼岸という分け方がある。我々が今生きている世界が此岸の世界、彼岸というのがあの世を指すとする。
 このように今我々の目に映っている世界を分けるとすると、バーンズアンドノーブルなんかは此岸の世界にあり、アマゾンは彼岸の世界にある。また、日本はまだ此岸の世界にあり、アメリカなどは彼岸の世界に近づいている。
 そして、此岸に合うのはパソコンで、彼岸に合うのは情報発電所である。パソコンとはこちらでソフトを使って加工すること、情報発電所とは発電所で加工しこちらにもってくることを指す。よって、此岸の世界はweb1にあり、彼岸の世界はweb2にあるというように考えている。

 企業でいうならば、此岸の世界にあるのは紀伊国屋やバーンズアンドノーブルで、彼岸の世界にある企業がアマゾンなどである。
 そして同じように、此岸の世界にある企業としてレノボ、彼岸の世界にある企業としてグーグルが挙げられる。IBMがレノボにパソコン事業を売る際、1兆円の売り上げを出していたにも関わらず2000億円で売ったということに対して、同じ時期に、売り上げ3000億円のグーグルが株を公開し、3兆円の値がついたのである。
 何が言いたいかというと、此岸よりも彼岸の世界が高く評価されたということで、此岸の世界には限界があるということである。

 マイクロソフトや楽天なども此岸の世界に所属していると考えられる。マイクロソフトは売り上げ4兆円に対し時価総額30兆円である。
 一方、グーグルは売り上げ5000億円に対し時価総額10兆円超である。売り上げはマイクロソフトの八分の一であるが、時価総額は三分の一である。
 時代の変化に伴い、マイクロソフトにも限界が見えてきたのかもしれない。それくらい、インターネットの世界は進む速度が速いのである。

 グーグルは、経営方針として「よりよい環境をつくる」ということを掲げており、その商業方法は主に広告である。顧客によって書かれたメールなどから機械が単語を抜き出し、分析し、その顧客に合った広告を送りつけているのである。
 グーグルが出している広告が100兆円あると言われているのに対し、マイクロソフトがいくら10万円のソフトを開発し売っていったとしても、限りがあるのである。
 グーグルは自分の会社のために何兆円もかけて巨大なパソコンをつくり、顧客に合わせた情報を発信している情報発電所なのである。
 世界は全く変わってきている。このような世界で勝つために我々はどうしたら良いのか?これが今日の題である。

 一つ紹介したいのが、ブライアン・アーサーというサンタフェの研究所の方が言ったことで、今、五番目の世界に来ているということである。
 一番目は産業革命のことで、二番目は鉄道革命、三番目は重工業革命、四番目は製造業革命(マニュファクチュアリング革命)、そして五番目は情報革命のことである。
 そして今まではそれらの革命が英国・英国・独国・米国・米国で起きていて、この中で我々はどうするのかということである。

 ABC分析におけるCでも、在庫費用がかからなければ売り上げになる。このようなことが情報を利用すれば可能という世界ができているのである。
 その分、製造業には限界があるのだということである。亡くなったドラッガーさんやJ.Bクイーンさんは、「日本は製造業に片寄りすぎている」「変化についていけてない」と述べている。
 そういう意味で我々は、製造業のあり方について考えなければならない世界にきている。

 最後に言いたいことは、仕事のやりかたを変えなければならないということである。
 具体的に述べると、1万人の会社で8時間の労働をすると、8万時間もの時間を付加価値の増殖にかけていることになるが、同じ労働を100万人で行ったとすると、一人当たり4分48秒ということになる。1億人ならば2.8秒ということになる。
 そうすると、100万人に5分か10分インターネット上で仕事していただくと、取るに足らない時間で、違う世界を作ることができる。
 例えば、ウィキペディアという誰でも書き込めるネット上の辞書は、収録語が87万項目もある(日本語の場合は16万項目)。エンサイクロペディア(百科事典)などでも6万語しかない。しかも、ウィキペディアまだできておよそ5年しかたっていない。

 こういう時間の使い方をする企業になると、1万人の従業員は必要ないのである。
 その代わり、100万人に対して魅力あることをする。そうすれば100万人が稼いでくれるのである。
 もちろんその100万人の結果に対しては報酬を払うシステムを作る必要がある。それがネット上につくった「稼ぐ分身」というものである。
 稼ぐ方法はいくらでもある。手伝ってくれた人に報酬を払うシステムさえ確立させれば、誰しもが新しい世界に入ることができる。

 最後に私が提案するソリューションとは、産・学・官・民連携という一つのパターンである。これを大事に、そしてこれをハブにNPOに入れ込むということ、これが世の中の大きなソリューションになると考えられる。
 それと、オープンな交流会をすることと、稼いでもらうホームページをつくるということ、そこから全く新しい世界に入れるということである。

井上 健雄