エコロジー研究会
CSR教育は会社に何を齎したか
イズミヤカード株式会社 専務取締役 田中 博和 氏 
エコロジー研究会(H18.9.15)より


はじめに

 今日は「CSR教育は会社に何を齎したか」ということで、お話をさせて戴きます。
 今年の3月から1年間かけて、当社の若手社員を中心にCSR教育を、フィランスロピー研究所の菅原先生にお願いしてやっております。この8月に中間発表がございましたので、ぜひご報告するようにということでした。少し恥ずかしいのですが、このエコロジー研究会の会長の井上さんは、私の大学、あるいは会社の先輩ですので、命令を聞かないと大変です。あまり大したことはまだ言えませんので、「いこいトマトとブドウ」(※)を食べながら、聞いて戴ければと思います。
※宮武先生のお知り合いの福祉施設の方々が作られた美味しいトマトとブドウのこと。

 まず当社の概要からご説明させて戴きたいと思います。
 事業内容はクレジットカードの事業、保険代理店、ファイナンスです。ファイナンスというのはリースとか個人融資です。
 設立は昭和53年7月で、今現在の資本金は2億378万円です。
 従業員は203名で、正社員は102名でございます。あとは嘱託社員、契約社員、パートタイマーという構成になっております。

 続きまして当社の沿革でございます。
 昭和53年に設立した時は、ビジネスリサーチという会社名で、保険の代理店業を中心に、マーケティングなどをやっておりました。
 昭和58年9月に親会社のイズミヤがクレジットカードを発行し、その事務代行を当社が請け負うということで、カードの事務をスタート致しました。平成8年11月にこの事業をイズミヤから譲渡されまして、社名をイズミヤビジネスサービスと変えております。その後VISAと提携したり、保険ショップを展開したり、あるいはイズミヤでクラブカードというポイントカードを発行しましたので、その業務委託をやっております。
 平成13年9月に、それまでショッピングだけだったカードにキャッシング機能をつけ、平成16年5月に今度はイズミヤカードという社名をつけまして、今現在に至っております。

 私どもはイズミヤグループの中にいるのですが、イズミヤグループは今年度から3カ年計画として、「ダッシュ120」という取組みをスタートしております。平成20年度に営業利益を120億円にしましょうという取組みです。こうした枠組みの中で、当社も大きく飛躍すべく、地固めの人材育成としてCSR教育に取組んでいます。

 特に、平成13・14年度にリストラをしまして、ベテランが抜けましたので、今になるとやはり部下を教えられる方が非常に少なくなっているんですね。あるいはコンピュータの導入により、非常に少ない人数で店舗が運営できるようになりましたので、部門長や統括長も自分の仕事がめいっぱいあって、部下を教える時間がなくなっています。
 そこで、部下を一生懸命教育できる人を評価しよう、あるいは自己実現ができるような会社にしていこうということで、もう一度人材育成を柱にしました。


イズミヤカードの現状と課題

 業績は割に順調に伸ばさせて戴いております。
 平成13年9月、ちょうど9.11があった日にキャッシングサービスをスタートさせました。従来からショッピングで黒字構造ができていたのですが、その上にキャッシング事業を始めましたので、今も利益率ではずっと20%近い伸びを示しているという状況でございます。

 ただ、いろんな問題も抱えております。
 外部環境としては、一つは金利引き下げ問題です。
 最近新聞紙上を賑わせておりますグレーゾーン金利の問題ですね。出資法と利息制限法がございまして、金利が出資法では29.2%まで、利息制限法では15〜20%と決まっているのですが、どこの企業もその真ん中ぐらいの金利でお貸ししているという状況です。これを20%以内に引き下げ、利息制限法に一本化しようということで、現在自民党で検討されています。当社の場合も20%以下になりますと、引き下げインパクトがあります。ここをなんとか解決していかなければなりません。反対に、調達金利の方は上がり気味でございます。
 またコンプライアンスは絶対取り組んでいかなければならないということで、そのコストもかかっています。

 もっと深刻な問題は、内部環境の問題です。
 一つは人員構成がいびつだということです。
 先ほど正社員が102名と言いましたが、そのうち55%が20代で、30%が50代です。ほとんどが20代と50代の会社です。50代と20代はなかなかコミュニケーションがしにくいですね。また32%ぐらいがイズミヤからの転籍で、年齢の差や学んできたことの差がございます。
 それから組織の見えない壁です。もともと保険事業でスタートしたので、保険の方はものすごいプライドがございます。一方カードの方は儲け頭と思っておりまして、この間でなかなか異動できないのですね。それぞれが自信を持って、尚、協調度の高い組織をと考えています。
 また、当社の事業はストック商売の傾向が強いためか、少しのんびり屋になり、アグレッシブさが弱いということでしょうか。つまり、過去に保険の契約をたくさん取っていたり、キャッシングの残高が積み上がっていると、後はのんびりと暮らせますので、ふと気がつくと財産がなくなっているということになりかねません。それをどう変えていくか、ということがございます。


CSR教育の概要

 このような問題を抱えていて、やはりイズミヤグループを挙げて人材を育てる、あるいは戦える人を創っていくことが大事だということで、今年度はプロパーの社員の方にCSR教育を受けて戴いております。
 「CSRの講義、勉強会、発表を通じてCSRマインドを形成し、グループワークを通じてコミュニケーション能力及び提案力を高める。最終的に活動成果を経営陣に対して提言として纏めることでチャレンジ精神を高める」という方針の下で、菅原先生にご指導戴いています。この1年間これにかけてやっていこうとしています。去年は個人ごとにテーマを決めて発表会しましたが、こうした教育を通してこれからの人を必死で育てていこうとしています。

 内容としては、菅原先生に12回、12時間の講義をして戴きました。それから勉強会、あるいはグループワークが9時間で、トータルで今現在21時間ぐらい受けて戴いています。
 8月の25日に第1回の発表がございまして、これから第2回、第3回があり、最終的には経営層に対しての提言をするという内容になっております。

 第1回の発表の内容としては、第1・第2グループは顧客を中心に、「お客様の声を形に」「お客様にとってのオンリーワン企業を目指して」ということで、「お客様の声が本当に経営層に届いていますか」「お客様の声を本当に活用していますか」という投げかけがございました。
 第3グループは取引先ということで、「知っていますか、あなたの会社」をテーマに進めています。ここはちょっと難しくて、リスクマネジメントにするのか、あるいは取引先に対する優越的地位の乱用にするのか、あるいは顧客情報の保護にするのか、ちょっとまだ迷いがあるようですね。
 第4グループはIZCをもじって、「今こそ全員でチャレンジ社会貢献」としています。身近なところから何か社会貢献ができないのか、あるいは社会貢献をするようなカードを発行したらどうか、例えばカードを使って戴いた取扱高に対して、いくらかを社会貢献に使ったらどうかという提案でした。どんな提案になるか非常に楽しみにしています。
 第5グループは「もったいないの輪を広げよう」ということで、環境問題について取り組んで戴いています。イズミヤはISO14001をとってEMSを構築し、マネジメントサイクルの中に環境問題を取り込んでいるのですが、当社の場合はまだそこまでいっていません。このようなボトムアップの中で何ができるかと思っておりますし、この提案の中から環境問題に対しての委員会等も創っていければとも思っております。
 第6グループはコンプライアンスです。「小さなことからこつこつと」ということで、特に顧客情報保護の問題、あるいは内部統制システムについて研究して戴いています。
 第7・第8グループは従業員の問題です。第7グループは従業員満足で、会社からみた場合にどうすれば良いのか、第8グループは従業員としてどうすれば良いのかを提言しようとしています。


CSR教育がもたらしたもの

 このCSR教育を振り返ってみますと、若手社員にとっては、会社の取組みの理解が進んだのではないかと思います。我々も発表会で、「ちょっとおかしいんじゃないか」とか「面白い、やっていこう」など色んな意見を出して、本気で育てているんだということを伝えようとしています。
 また内部統制システムなどの各種委員会を、この5月の会社法の施行に合わせて矢継ぎ早に創りました。内部統制システムのガイドライン、あるいは管理委員会、コンプライアンス委員会などを創ったのですが、それが本当に機能しているか、あるいは従業員としてどれほど理解しているのかという問題もございます。それについても、どんな意味でこういう委員会を創っているのかがだいぶ分かってきたのではないかと思います。
 同様にコンプライアンスとして、5月から社長メールや内部通報システムのヘルプライン、セクシャルハラスメントについての相談窓口「Sライン」を設置したのですが、まだまだ活用されていないということがございます。会社としてはこのようなことも考えているんだな、ということを理解して戴いたと思っております。
 意識改革という面でも、コミュニケーションが生まれたのではないかと思います。

 会社にとっては、課題が明確になってきたのではないかという気がしております。
 人材の育成については、今教育をしていますが、片方でやはり働き甲斐や評価の問題があります。人事制度をもう一度掘り下げて、やり直していかなければならないということで、この下期から委員会を立ち上げようと思っております。
 またCSRの推進については、形だけ、勉強だけではなく、本当の意味での活動にしていくということですね。

 お客様情報の活用については、経営者にお客様の声が届いているかという問題があります。それ以外の問題点としては、こういう会社はほとんどそうなのかもしれませんが、お金をきちんと振り込んでくれない方や、なかなか支払ってくれない方ばかり掘り下げるんですね。カードの申込書を見ても、これは大丈夫かという負の方ばかりを見るんです。
 しかし、負の方は本当に少ないですね。当社の場合、もともとイズミヤに来て戴いているお客様に対してカードを発行していますから、支払が遅れる方も0.3%程度で、今まで累計しても3%ぐらいしかトラブルがありません。
 どんなお客様が我々に利益をもたらしているのかが見えているかというと、見えていないんですね。一生懸命がんばって見ているのは、どちらかというと負の方の3%のお客さんであって、それ以外の97%、あるいはもっと利益をもたらしているお客様が見えていません。

 イズミヤではクラブカードというIDカードを発行しています。飛行機ではよく飛べばポイントが高くなるフリークエント・フライヤーズ・プログラムというものがありますが、イズミヤの場合はフリークエント・ショッパーズ・プログラム(FSP)といって、たくさん買って戴くお客さんの方がインセンティブが高くなっています。このようにして、上位のお客さんをどんどんどんどん掘り起こしていこうとしています。
 イズミヤでは全売り上げの大体81%のお客様の情報を掴んでおり、2年間の全ての買い上げ履歴をもっています。これを色々と分析すると、大体30%のお客様でイズミヤ全部の売り上げの70%を創って戴いています。そしてそのお客様で大体80%ぐらいの利益をもたらしています。70%のお客様では100%を超える利益です。あとの30%の方はチェリーピッカーやバーゲンハンターで、利益面ではマイナスです。
 ですので、上位の30%の方にフォーカスする、あるいは真ん中の方をどう上の30%にもっていくかという取組みをやっているのですが、やはり良いお客様を見極めていく必要があるだろうと思います。
 それから企業風土改革という面では、やはり積極姿勢を創っていかなければなりません。

 CSR教育を通じて、皆様が発表して戴いたことが経営層にこのような課題をもたらしました。これから2回の発表がございますので、非常に楽しみにしております。
 今日は中間発表でございましたので、またきちんとした最終発表が出来ましたら、ご報告したいと思います。ありがとうございました。

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