エコロジー研究会
今、東京で起こっている事、起こす事
早稲田商店会事務局長 藤村 望洋 氏
エコロジー研究会(H18.12.15)より

はじめに

 街を動かすキーワードは2つある。楽しいことと、儲かること。この2つがないと、街は動かない。
 NPOも一緒だと思います。NPOはNonprofit Organizationの略ですが、Nonprofit(非営利)でやれるはずがないですね。だから我々はNew Profit Organization、新しい価値を創造するのがNPOだと言っております。NPOは産官学「地」、地域をどう考えるのかが一つのキーワードだと思っております。
 人間も動物ですが、動物で大事なのは、生存のための巣と、餌をとったり子育てをしたりするテリトリー。
 ところが人間はこのテリトリーという感覚が最近なくなってきたんですね。テリトリーを忘れてきたおかげで、いろいろ問題が出てくるようになったと思う。だから地域というものがとても大事なんだなあと、ようやく皆さんも実感しておられるのではないかと思っています。


団塊の世代の地域デビュー

 会長の話の中で、団塊の世代が670万人とありました。その人たちがどっと世の中に繰り出してくるということで問題になっていますが、そんな人間がいきなり退職するわけじゃありません。半分くらいは専業主婦ですし、我々のような中小企業零細企業や自営業の人たちもいっぱいいるわけです。ある地域だけ考えたら、数人とか10数人とかの話です。
 また全国の自治体が、団塊の世代を移住に迎えたいと言っています。全国2000もある自治体がみんな同じこと言ってたら、来るはずがない。
 我々は団塊の世代の地域デビューというのを考えてくれ、ということでいろいろなところに呼ばれました。団塊の世代はずっと一所懸命働いて、ノウハウをもっている、これを地域に生かすべきだ、と言われたんですね。
 しかしその人たちがもっているノウハウは、もう古い。そんなノウハウをもって地域に来て戴いたら、大迷惑。それでその人たちは、2度死ぬんです。会社から放り出されて1回死んで、地域で自分のノウハウは活きないと分かって2度死ぬ。だから初めから、ノウハウはいりませんと言ってあげて下さい。
 じゃあ何が大事かというと、組織の中でやりたくてもできへんかったことを地域でやってみるということです。それから、リタイアしても資本主義社会に生きてるのは変わらへんから、地域にデビューするんやったら、300万でも100万でも、5万でもええから、投資する気で来い、ということです。


お客が集まるエコステーション

 それでは我々は実際にどんなふうにやっているのか、楽しいことと儲かることっていうのはどんなことかを、ちょっとお見せします。
 私たちの商店街は、早稲田大学に3万人くらいの学生がいて、その周りに460店舗ぐらいのお店があって、その周りに2万人くらいの住民がいるという街です。ところが3万人の学生は、7月に試験が終わったら9月23日くらいまで、いなくなります。
 その対策に何かしようというのが、1996年8月でした。でも金がない。1996年はちょうど京都議定書の年で、我々は金がなくて人が集まる方法として、環境リサイクルを選びました。
 商店街というのは、環境やリサイクルとはほど遠いですよね。だって売上をあげますと、ごみがたくさん出るんです。そんな商店街が、実に不純な動機で環境リサイクルをやることになったもんですから、どうしたらいいんだということになりました。
 夏の商店街のイベントですから、色々と物を売ります。すると当然、ごみがたくさん出る。じゃあそれを分別回収してリサイクルに回すと、ごみが出ないんじゃないかということで、空き缶回収機、ペットボトル回収機、生ごみ処理機、発泡スチロール処理機を借りてきて、ずらっと並べました。その横には段ボール、新聞紙、その他の雑ごみ、割り箸などのコーナーを創って、環境リサイクルのイベントをやったんです。
 そうすると、会場中のごみの90%はリサイクルできた。その中で特に人気だったのが、ペットボトル回収機です。ペットボトルを入れると、上のテレビ画面でゲームをします。ゲームで勝つと、クリーニング2割引、お豆腐5割引などのチケットがプリントアウトされてくる。これがえらいうけましてね、絶対やらねえって言ってた学生たちも、ガンガン引っ掛かって来ます。皆がどんどん商店街にやって来た。
 これを商店街は密かにお客回収機と呼びまして、毎日やろうということで、空き店舗に空き缶回収機とペットボトル回収機を置いて、エコステーションと称しました。
 町の人からみたら、商店街が地球環境のことを考えて、自主的にリサイクルの拠点を設けたぞ、ということなんですね。ところが我々にしたら、お客回収機。ここが環境派と全然違うところなんです。環境を一つの手段にして、我々は集客をしておる、ということでございます。


リサイクルから地域との連携へ

 そのうちに、商店街の活動は面白いから、学校に来て話して下さいと呼ばれるようになりました。
 例えば戸塚第一中学校は、2002年に創立55周年記念事業で、この街の55年前を街の人間が中学生にお話する、戸塚の昔を語る会をやりました。
 そうすると中学生たちは、50年前や2〜30年前、日本がどうであって、早稲田の辺りがどうだったのか、知らないということが分かってきました。これは街づくりにとっては大事だなということになって、我々は毎年、学校でお話をするようになります。
 また2003年には地震について話をしました。関東大震災のようなマグニチュード8クラスの巨大地震は、150〜180年くらいで起こる。その前に80年くらいたったら、マグニチュード7クラスが数発起こるそうです。2003年で、1923年の関東大震災から80年です。
 ところが中学生でしょ、阪神大震災が起こった8年前でも、小学校1年生から幼稚園なんです。ですから東京の中学生はあの実態を知らないんですね。実態が分からないと、地震対策はできないでしょ。そしたら地震とは何かというところから話をしないといけないということが分かった。
 そんなことを商店街が一緒にやるようになったんです。これが地域ということです。
 もちろん、商店街の全員がそうなったわけじゃないですよ。早稲田は大正2年からやってる商店街で、古いですから、古い奴が多いんです。だから我々は、皆でやらない街づくり。走りたい奴が走りたいときに、走りたいことで走る、それをみんなで応援する。
 これを実行委員会方式と言います。商店街のメンバー以外も、地域の人や学生、主婦、企業、みんな一緒に実行委員になって戴く。今年の環境イベントの実行委員会は学生が500人で、他にも主婦とか市民とか企業だとか、全部で700人くらいです。商店街で関わってるのは2〜30人ですが、地域としての力はどんどん増えてくる。
 実はこれが、リサイクルをやって得た結果なんです。よく空き缶やペットボトルはどれだけ集めたでしょうかって聞かれますけど、それよりも、これをやったことで地域が仲良くなってきた、これが大事なんですね。


全国の生産者とのコラボレーション

 北海道から沖縄まで全国100か所くらい、いろんなところがエコステーションをやろうっていうので仲間になってきました。それで分かったのですが、全国津々浦々、同じものが流通しております。同じサイズ、同じ品質、同じ値段でいつでもどこでも。
 ところが、そうじゃないものってありますよね。例えば新潟県の横越町で食べたキャベツはやたらうまかった。雪中キャベツといって、雪が降るような時にできるキャベツでおいしい。でも仕入れさしてくれって言ったら、自家用だからだめだと言われた。
 雪中キャベツは球揃えが悪く、水分が多い。この水分が寒さで糖度を増しておいしいんだけど、スーパーは球揃えが一定で、水分が少なく流通で傷まないキャベツを買います。しかし雪中キャベツの方がおいしいのはみんな知ってるから、自家用にちょっと作ってるわけです。
 このようなものは全国にいっぱいあるんですね。山奥の7mの雪の下で育つニンジンとか、一瞬の季節商品とか、この地域だけしか作っていないものとか。それを我々が商品化できると分かった。
 できるようになったのは、こういうネットワークができたからですけれども、もう一つ、ITです。我々は、直接お客さんが買いに来るんではなくて、地域の販売店に情報が流れて、販売店がお客さんに売るというシステムを創りました。
 例えば愛媛県のミカンですが、スーパーが買うミカンは「M2サイズの糖度10〜11度」などのように決まっています。そこで我々は、大きいのや小さいの、甘いのや酸っぱいのがいっぱいついた枝を、そのままチョキンと切って売りました。新製品でも何でもないんだけど、物の見方を変えただけで、ものすごい売れたんです。
 地域の商店街と、地域の生産者と、地域のお客さん、住民が一緒にコラボレーションすることによって、こういう商品開発が可能になります。


コラボレーションで地震対策も

 こういうネットワークができてくると、初めに話した地震が起こった時も、全国の町が助けてくれるんですね。まず救援物資を送ってくれる。それから老人や子供をちょっと疎開させてくれるんです。
 地震対策は日頃からの関係が大事です。来るといってもいつ来るか分かりませんから、来ない時の対策を織り込まないとだめなんです。我々は保険を創ったんですよ。共済保険で、地震が来たときには預かってくれます。地震が来なければ、全国から特産物が届きます。知らない所には行けないですから、遊びに行きます。そうすると、地震が来なければ来ないほど、特産物も人も動く。
 さらに、この保険を売るために、我々はプチ目黒メソッドというのを活用しています。これは地震が来たとき、3秒後に何をしているか、3分後は、30分後は、というイメージをずっと書いていくんです。家で寝ていた時、道路を歩いていた時、電車に乗っていた時、学校にいた時など、あらゆる場面を想定してやるんです。これによって地震のイメージがはっきりします。
 このように、エコステーションから始まって、様々な活動を展開しています。こういう知恵を出して街づくりをするのが大事なんじゃないかと思ってるわけです。

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