●エコ・コラム エコマネジメントが 経営の未来をつくる |
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NPO法人イー・ビーイング 理事長 井上 健雄 イズミヤ総研第75号(H20.7.1)より |
■はじめに 〜 未来は今そこにある 〜 五月晴れに涼風の流れる中、どんぐりを植えた。そうすると、2週間もすると芽が出て、3つの葉がどんどん大きくなり、20 cmを超えた。この幼木を大地に移し変えれば雲を突くような大木になるのだろう。なんと偉大な自然の力よ。小さな種が。 しかしその種は、環境を取り入れる術(すべ)と構造を持っている。種の周りの環境と共生し、自己の成長に必要な資源を吸収し成長するのだ。 このどんぐりとまでいかなくとも、私はどんな小さな一文を起こす場合であっても、何かを前進させる思想をビルト・インさせたいと思っている。皆様にとって‘いい種’でありますよう、祈念して始める。 ■グリーン・ウェーブが経営のゴールドを創る 企業が課題を選択する前提として、これからの経営は、地球の生態系の示すヒントに着目すべきだと考える。 アフリカのサバンナに生きる動物でさえ、単なる弱肉強食ではない。弱い動物だってちゃんと生き残っている。それぞれが異なる生き方を選択し、その生き方の質を競いながら共存しているのである。 植物の世界だって同じである。限られた地面と空間と太陽光の獲得を競いながら、色々な植物が共生ワールドを築いている。この共生は、多様性によって成立している。 人も地球に生かされている限り、多様な共生ワールドに生きる自然人である。この自然人が、家庭を持てば家庭人となり、法人としての会社を造れば会社人・・・を形成しているに過ぎない。 とすれば家庭人も会社人もこの自然の法則を学び、対処すべきである。 こうした文脈から私は、企業も多様性を取り入れ、共生ワールドを築き地球秩序を創る貢献をすべきだと考える。 それは、経営的に地球限界に対峙し、地球へのグリーン・ウェーブ(環境にやさしい行動)を起こし、経営のゴールド(利益)に変えることである。 グリーン・ウェーブに乗って環境に取り組んだって何がゴールド(利益)に繋がるもんか!という懐疑派(ある意味結構なことである・・・)もいらっしゃるだろうから、グリーン・ウェーブに取り組むグリーン・ライダーのパフォーマンス(図1)を検証しよう。 たかだか15年間の株価推移であるが、ウェーブ・ライダーの平均株価は1996年を起点に3.5倍以上のパフォーマンスを示すのに対し、SP500指数においてはやっと2倍であり、FTSE100指数に至っては1.5倍しか伸びていないのである。 こうしたウェーブ・ライダー企業の選別は、環境格付け機関のイノベスト・ストラテジック・バリュー・アドバイザーズのスコアカードなるものを使用し、調査対象5,000社から200社まで絞り込みされたものである。財務実績の優良指標は、ある意味簡単だが、グリーン・ライダー企業は利益より価値観を大切にするのでその評価は難しい。そこで表1のゴシックで示した四つの項目に25%ずつウエイト付けし採点している。これらの項目こそが、企業の社会生態系での役割を問うものである。 (注) ここでのウェーブ・ライダーと文中で表現するグリーン・ライダーとは同じ 図1 環境優良企業の株価の推移(1996−2006年の10年間) 表1 企業の社会生態系指標
表2 グリーン・ウェーブに上手に乗った企業ベスト50
図1からはグリーン・ライダー企業のパフォーマンスの高さは一目瞭然である。 但し、ウェーブ・ライダーの株が値上がりしているのは環境問題に取り組んだからでなく、基本的に経営が優れていることにある。 しかし、当たり前だが環境パフォーマンスの高さが、経営のクオリティをあげていることも確かなのである。 そうしたこともあり、今回の一連のレポートの後半では、このグリーン・ウェーブに乗ったベスト企業(表2)の秘訣を探り出してみようと考えている。 ■エコロジカル・フットプリント 社会的に企業がグリーン・ライダーであることを求められている事情の指標として、エコロジカル・フットプリントに触れる。 今までの記述で、グリーン・ライダーのパフォーマンスを確認いただけただろう。 しかし私たち人類は、図2のように1987年に地球の扶養力を超えた生活に突入しているのである。あぁ痛ましいと思うと同時にこの対策は、ビジネスにもwin-winを齎す経営課題ともなったことを意味する。 図2 人の足で踏み抜かれる地球
エコロジカル・フットプリントの説明は、上の枠内に記しているが、地球の扶養力を1とし、これを超えると結果的に地球を踏み潰してしまうから、エコロジカルな限界をフットプリントと表現したものである。 図3によると、たかだか40年前は地球の扶養力は半分もの余力を残していたものが、1987年に持続レベルを超え、2003年には扶養力の25%増もの赤字生活に入っているのである。 2003年の国別データの切り口から日本とアメリカを概観すると、生産能力を持った面積が日本では一人当たり0.7グローバルヘクタールしかないのに対し、その生活レベルで使用している面積は一人当たり4.4グローバルヘクタールにもなっている。 日本人は、国土がもつ生産能力の6.3倍の生活を謳歌している。日本は、リスクを忘れたイソップのキリギリスのようなものかもしれない。 図3 エコロジカル・フットプリントの3つのシナリオ(1961〜2100年)
(出所:WWF『生きている地球レポート2006』より作成)
アメリカならこうなる。アメリカ人と同じ生活を世界市民がすると、地球は5.3個必要になる。ただ一つの地球しかないのに・・・ つまり、こうした地球の扶養力を超えた生活の影響の一つが温暖化問題となって現われている。 図4 世界の年平均地上気温の平年差の経年変化(1891〜2007年)
(出所:気象庁より作成) 棒グラフ:各年の平均気温の平年値との差 (平年値は1971〜2000年の30年平均値) つまり温暖化の傾向は、図4で分かるように、100年強で0.6 ℃の上昇を示し、1987年前後に5年移動平均と30年平均値の二つともがプラスに転じているのである。 このまま推移すると2090年から2099年の平均気温は2.4〜6.4℃上昇すると予測されている(IPCC第4次評価報告)。このことにより、大雨・干ばつ・台風等の増加や海水面26〜59 cm上昇などの不可逆な悪影響が予想される。 こうした経緯からIPCCとアル・ゴア氏に、温暖化の取り組みと不都合な真実を伝えた功績として2007年ノーベル平和賞が授与されたのである。 2006年気候変動の経済学の権威 スターン氏は各政府・各企業・各世界市民に以下のレビュー(表3)をしている。 表3 スターン・レビュー(「気候変動の経済学」、2006年)
■ウォルマートCEOの呼びかけ 第一回の総論を締め括るにあたり、少し旧聞にはなるが、ウォルマートCEOリー・スコットが2005年の大型ハリケーン・カトリーナによる大災害に対し社員に呼びかけた一文を紹介する。 『どうすればウォルマートはよい企業になれるでしょうか。私たちはウォルマートの規模と経営資源を生かして、この国を、この地球を、よりよい場所にするために尽くすべきではないでしょうか。それは顧客のためであり、社員のためであり、子どもたちのためであり、これから生まれる世代のためでもあります。私たちにはきっとできるはずです。(中略)責任ある市民であること、成功する企業であることの間には、区別はありません。今日からウォルマートにとってこの二つは一つのものです。』 リー・スコットが言いたかったことは、企業はグレートであるよりもまずグッドであることだと述べている。 良い企業への旅の一つは、まずグリーン・ライダーになることである。 それではこれからこの嶮しい道を探り、豊饒なマーケットへの旅に出ることにしよう。 |